Mar 31, 2023 interview

前田哲監督が語る 極限まで削ぎ落としたセリフと芝居を生かすための工夫を重ねた映像で作り上げた 『ロストケア』

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極限まで削ぎ落としたセリフ、芝居を生かすための工夫を重ねた映像

池ノ辺 セリフも素晴らしかったですね。

前田 とにかく余分なものを削ぎ落として、ぎゅっと凝縮しました。僕も書き直し、龍居さんにも書き直してもらって、二十数稿まで出しています。お互いにキャッチボールしながら最小限にまで絞ったつもりです。

池ノ辺 カメラも良かった。女性の方ですよね。

前田 板倉陽子さんですね。あと美術も後藤レイコさんという女性です。

池ノ辺 ひとつひとつのレイアウトが、すごく考えられている感じでした。

前田 特に2人が対峙する場面は、基本ずっと座ったままですから、どうしても単調になります。かといってカメラが芝居をしすぎると、いかにもこれみよがしの感じがしてしまう。ですから、芝居の流れや感情とリンクさせながら、最終的にどう撮るか、というところから逆算して全体の流れを決めていきました。

池ノ辺 仄暗い家の中の感じとか、陰影に深みがあるのも良かったです。

前田 光と影は今回のテーマの一つですから。ポイントポイントで計算して撮り方を工夫しています。ただし、そういったグラフィックな部分が先行しすぎないようにということは気をつけました。あくまで「芝居を撮る」ということが大前提で、その芝居をどう活かせるかということでの映像ですから。

池ノ辺 今回の撮影は、コロナの影響は大丈夫でしたか?

前田 それはなかったんですが、スケジュールなど別の理由で当初の予定から結局2年延期しての撮影になりました。

原作が日本の地方都市が舞台ですから、抜け(景色)の良い町で撮影しようとなり、3月で雪が残っている景色が欲しいから、じゃあ東北だろうとか、いろいろ考えたんですが、予算のことやアクセスや協力体制のこともあって、結局長野県の諏訪湖近辺はどうだろうという話になったんです。諏訪湖は角度によっては海にも見えますしね。フィルムコミッションと地元の方達のあたたかい協力もあって、茅野市、伊那市でも撮影しました。一部は山梨でもお世話になってます。ロケではとても助けられましたね。ほんと感謝です。

池ノ辺 撮影期間はどれくらいだったんですか。

前田 3週間です。

池ノ辺 それはまたずいぶん短期間だったんですね。

前田 ちょうど撮影が休みの日に雪が降ったんです。それで、休みの日に申し訳ないけれどと言いながらスタッフに声をかけて、車を飛ばして介護センターの雪景色を撮りました。実景が撮れてすごくラッキーでした。これ以上のことはできないというくらいタイトなスケジュールだったんですが、いろんなことが見事にハマってなんとかうまく収まりました。