俳優業と共にプロデュース業も務める小沢まゆという俳優。前作『夜のスカート』(小谷忠典監督/2022)で主演、初プロデュースを手掛けた後に、彼女が手を組んだのは、塚本晋也監督の助監督を経て、精力的に映画制作を続ける映像作家・髙橋栄一でした。本作『ホゾを咬む』は、ASD(自閉スペクトラム症)グレーゾーンと診断された髙橋監督が、自身の感情に着想を得て「愛すること」を描いたラブストーリー。この作品でヒロインとプロデューサーの役割を果たした小沢まゆさんに、今回の作品での取り組みや、何故、プロデュース業に興味を持ったのかも伺います。
―― 私は短編『サッドカラー』と、本作の長編『ホゾを咬む』は対になっていると思いました。まず髙橋栄一監督の短編映画『サッドカラー』では主演を務められていますが、どのような経緯でご出演されることになったのですか。
『サッドカラー』のお話を頂く前に、髙橋監督がコメディタッチの1話完結の連続WEBドラマ「除霊女」を撮られていて、私もちょっとだけ出演したんです。実は髙橋監督は、以前、私のデビュー作で奥田瑛二監督の『少女~an dolescent』(2001)を観て、作品自体にもの凄く衝撃を受けられたそうです。髙橋監督の中では本当に心に残る1本になったとのことです。
それと、髙橋監督の奥様はスタイリストをされていて、私は何年か前に奥様とお仕事をご一緒したんです。その時、奥様から「夫が小沢さんの作品が凄く好きなんです」と聞いていたのですが、その人が「除霊女」の髙橋監督と同一人物だとは結びついていなくて、現場に行って髙橋監督から「実は~」という感じでお話を聞いた時に同一人物だったことを知り、驚きました。髙橋監督とはそんな出会いをしました(笑)。
「除霊女」という作品を一緒に作った後に髙橋監督が「短編を作る」というお話をされていたので「是非、出演したい」とお伝えしたんです。その時、髙橋監督が「小沢さんが出演して下さるなら、ちゃんとした企画で考える」と仰り、そして出来た作品が『サッドカラー』になります。
―― 『サッドカラー』はPFFアワード2023に入選するなど、評価されていますね。『ホゾを咬む』のプレス資料の中で髙橋監督ご自身がASD【自閉スペクトラム症】(対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障害の一つ)のグレーゾーンであると告白されています。『サッドカラー』を撮った後に専門機関で検査をし、診断されたということですか。
いいえ、その前です。なので『サッドカラー』の撮影時にも話を聞いていました。
―― だからこそ『サッドカラー』は【悲しみ】の感情を失ってしまった主人公の物語なんですね。
【悲しみ】がわからない人間は危険とされているちょっとSFっぽい世界が舞台です。そんな世界で【悲しみ】を失くした、【悲しみ】がわからなくなった女性を私が演じています。恐らくですが髙橋監督は「楽しむって何だろう?」というご自身が抱える疑問を、『サッドカラー』では、その逆の感情【悲しみ】に投影されたのではないかと私は捉えています。
―― 『ホゾを咬む』もそういった意味で、妻の気持ちが分からない男の自分なりの「愛すること」の物語。しかもある時、いつもと違う服装の妻を見てしまったという物語です。小沢さん演じる妻は、家では2つに髪を結き、メガネをかけていて、しかも椅子に正座とか足を上げて座っていたりしている。そのキャラクター設定が言葉だけでなく、行動や服装でなんとなく“彼女はどんな人なのか?”と気になる存在に変わっていくのも面白い点です。
あのルックスは本当に試行錯誤しながら髙橋監督と決めていきました。最初、家に居る時の妻はもっと大人しくて、例えば「白や黒、グレーの服しか着ない」みたいな感じでもいいのではないか?という案もありました。当初、カラーの映画を考えていたのでカラー撮影をしていまして、結局モノクロ映画になってしまったので見ても分からないですが、実は妻が家で着ている服はめちゃくちゃカラフルなんです(笑)。髙橋監督はそっちに振ったんです。家の中ではとにかく好きな服を着て、自由に生きている人というキャラクターを妻【茂木ミツ】に託しました。【茂木ミツ】という人物は、髪型もメガネもあの子どもっぽい仕草とかも何から何まで髙橋監督の演出です。