Sep 30, 2026 interview

宮澤美保 × 平野ノラ インタビュー それでも、この映画を届けたかった――深川栄洋監督と貫いた思い 映画『あなたの息子ひき出します!』

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――深川監督はこの映画を誠実に撮ろうとしたらスポンサーが途中で降りたと仰っていました。“ならば自分たちのお金で映画を作ろう!”と覚悟したそうですが、自分たちの生活もあるわけです。それでも“このテーマを映画にしたい”という想いにパートナーの宮澤さんが賛同した理由を教えて下さい。

宮澤 私も普段からそういう事を考えていて、世の中の矛盾や本当の正しさとは何なのか、優しさとは何なのかを常に考えていたんです。もし自分がその立場であったのならどうするか?を考えていたというか。役者という職業柄かもしれませんが、ニュースを見ると沢山妄想をしてしまうんです。そういう感覚が多々あるので、“何かしらの答えが見つかればいいな”と思って、色々なニュースを日々見たりしています。でも今回は、“皆さんにお伝えしたい”ということが強くあったので、”これは絶対にやらないといけない“と思ったんです。だからあまり生活の事とか考えませんでした。“このタイミングしかない”と思ったので、全然そこに迷いはありませんでした。ノラちゃんも忙しいですし、スポンサーが居なくなったからといって俳優に“この仕事は無くなります”なんて言いたくないですし、二度とこのメンバーでは集まれないと思ったので、深川と意見が一致しました。

平野 もともと出資していた方が出資出来なくなったなんて、ドラマティック過ぎですよね。そしてクラウドファンディングによって皆で映画を作ったんです。私には初めての映画なので分からないのですが、「お金ないんだな」と凄く感じながら、現場の熱量を浴びていました。

宮澤 本当にごめんなさい。

平野 いやいや全然です! でも映画って逆に“こんなふうに作るんだ”と凄く理解出来たので、貴重な経験でした。だって美保さんがこの大変な役作りの中で金庫番をしているんです。現場でお金を握りしめて、その姿にビックリしました。経理もやっているし、メールの返信もしたり、全部をやっているんです。信じられないですよ。本当に凄いと思って。

いつも車で迎えに来てくれる方が衣装担当をしてたり、皆が何役もやりながら掛け持ちをして映画を作っているんです。“今回の出演が自分の経験になったらいいな”と始めは思ってやっていたのですが、やっているうちに映画ってこんな想いで、こういう覚悟で皆が撮っているということを目の当たりにして、これはヒットしないととてもじゃないけど浮かばれないと思いました。本当に。深川監督の情熱に心打たれて「深川監督の作品だったら」と賛同して参加している役者さんもいらっしゃいます。周りのスタッフも含めてです。全員をそういう気持ちにさせる監督も凄いです。だからこそ一人でも多くの人にこの映画を届けて、ヒットさせないといけないと思いました。私自身も始めの頃と気持ちが変わっていきました。

――完成した作品をご覧になって率直にどう思われましたか。

平野 衝撃作品が出来たと思いました。自分が出演しているからではなく、客観的に観たら衝撃ですよね。皆さんがこの作品をどんなふうに受け受け止めるのか。賛否両論あると思います。【典子】の大きな愛も理解出来るし、でも母親として“ん?”と思う時もあります。本当に色々と考えさせられます。優しさとは一体何なんだろう?と、正義とは、強さとは、凄く思います。でも【典子】のような人が増えたら世の中はもっと平和になるとも凄く思います。あと知れて良かったことも沢山ありました。知らなかったことが沢山あったので、多くの人が知るべきことだと思います。

ちょっとのことで人の人生って変わったりしますよね。そういうことも他人事ではないですよね。もしかしたらこれから自分に起こるかもしれないし、自分の子どもや家族に起こるかもしれない。この映画を観て本当に良かったと思いました。

――宮澤さんは先ほど「伝えたいテーマがある」と仰っていました。それを言葉にするのは難しいかと思います。映画にしたことでどんなことが伝わればいいと思われていますか。

宮澤 今、ノラちゃんが言ってくれた事なのですが、私は本作が扱っている問題についてずっと考えていました。例えば「悪いことをした人はずっと牢屋に入れておけばいい」と話す人もいます。でも出てきてしまう現実があります。その時に“どうするのがいいか?”と思ったんですけれど、正直分からなかったんです。そういうことに取り組んでいる方々は少数ですがいらっしゃいます。でも罪を犯した人の数が多くて追い付かない状況です。

もし自分が被害者の立場だったら、加害者の親だったら、色々なことを考えた時に答えが出なくって、凄くモヤモヤしていたんです。でも知ることで防げることもあります。小さな子どもを持っているお母さん、お父さんにこの映画を凄く観て欲しいと思っています。私には子どもは居ませんが、今、世の中が大変な状況になっていると思うんです。映画で描かれているようなことは、自分とは違う世界の話ではなく身近にある話なので、皆に知ってもらいたいです。凄くお節介かもしれませんが、私はそう思っています。あとは治るということも凄く大事なことで、私自身、調べる前まで知りませんでした。それがあれば映画の【典子】のように支援してくれる人が居れば、“何か変わるかもしれない。ちょっと希望があるかも”と思えるようになりました。除外するだけではなく、何とかならないかなと思いました。

深川栄洋監督が10年というリサーチを重ねて作り上げた主人公【典子】を、見事に表現した宮澤美保さん。それはずっとそばで取材をする深川監督の姿を見つめてきて、共に考え、同じ志で映画化を願った宮澤さんにしか演じられなかったと言えるほど、後半のあるシーンでは衝撃を隠せませんでした。そして俳優デビューとなった平野ノラさんは、【典子】を程よく見守りながら、生きる為に出しゃばりすぎない程度に疑問を投げかけるパートナー役が秀逸で、スクリーンで宮澤さんと化学反応を起こしていました。ひきこもりや性犯罪、売春といったセンシティブな社会問題を臆せず、誠実に映画として観客に疑問として投げかけてくる『あなたの息子ひき出します!』。本作を見ることで多くの人が救われる世界を願うばかりです。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 岸豊

作品情報
映画『あなたの息子ひき出します!』

都会から離れた平穏な街に幼い息子と二人で暮らす小林典子は、社会から孤立している《ひきこもり》を支援する活動をしていた。繋がりを必要としている様々な葛麟を抱えた人々と一心に向き合う彼女の元には、他に行く宛の無い人や相談が集まってくる。ある時いつものように依頼を受けた典子が任されたのは、長い間ひきこもったままの三浦雅彦という男だった。初めは一切の関係を拒んでいた雅彦も、典子の地道な働きかけにより徐々に周囲と言葉を交わし始める。このまま順調に外の世界へと繋げることができるはずだった。しかし彼には決してひき出したくない過去があった‥‥。

監督・脚本: 深川栄洋

出演者:宮澤美保、平野ノラ、のせりん、⼩野光南翔(⼦役)、吉⾏和⼦、⽣瀬勝久、かとうかず⼦、⽯崎ひゅーい、江⼝のりこ、⽩川和⼦、⽶本学仁、⼤後寿々花、柄本明、⻄岡德⾺、天海祐希、⼤森南朋

©2026 スタンダードフィルム合同会社

2026年10月2日(金) シネスイッチ銀座、シネマ・チュプキ・タバタほか全国順次公開

公式サイト anamusu

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。 映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。 自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。 映画コメンテーターとしてCX「めざまし8」、TBSテレビ「ひるおび」、ABCテレビ「news おかえり」、BS10「舘ひろしシネマラウンジ」などでの レギュラー映画解説をはじめ、TVやラジオ、WEB番組で映画紹介枠に解説 で呼ばれることも多々。 雑誌やWEBで映画評論、パンフレット寄稿、映画賞審査員、 女性監督にスポットを当てる映画賞の立ち上げもおこなっている。洋画で映画館アフタートーク「しゃべればinSHIBUYA伊藤さとりとお友達」ヒューマントラストシネマ渋谷にて毎月開催中。 著書「2分で距離を縮める魔法の話術」(ワニブックス)。 2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」 (KADOKAWA)が発売 。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net