Apr 13, 2017 interview

生きている人間は多面体である。大友啓史監督×神木隆之介が『3月のライオン』で生み出した新しくリアルな2.5次元の世界

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矛盾したものが同居しているのが生きている人間

 

──高校では友達ができずにいる零と違って、神木さんの高校時代はクラスのイベントには積極的に参加し、事前にひとりカラオケやひとりボーリングを積まれ、クラス会を盛り上げていたそうですね。普段から影の努力を惜しまない神木さんですが、今回の棋士役は並々ならぬ苦労があったのでは?

神木 楽しかったです(笑)。僕は子どもの頃から将棋が好きでしたし、役づくりを兼ねて将棋が強くなるのが純粋にうれしかったんです。将棋のレッスンは実戦向けに僕に合った指し方をプロの先生に教えていただきました。「振り飛車と居飛車はどっちがいい?」と尋ねられて、「それでは、振り飛車で」とお願いすると、それに応じた戦い方や囲い方を教えていただいたんです。将棋の駒のプロ棋士らしい指し方も練習したのですが、実際に対局を続けていけば自然とうまくなるかなと、実戦を重ねることで棋士らしい指し方を覚えながら、強くなっていきました(※このときの上達ぶりを認められ、神木は日本将棋連盟からアマ初段の免状を渡されている)。

大友 神木くんは部活体質だよね(笑)。『るろうに剣心−』のときの立ち回りも、自分から進んで稽古に取り組んでいたしね。

神木 もちろん零の役づくりは難しく、つかみづらかったです。でも零はこういうキャラクターで、こんな性格だから、他の人とはこういう関わり方をするという考え方ではなく、零の周囲にいる人たちに対するそれぞれの距離感や親しみの度合いによって対応の仕方を変えていこうと考えるようにしたんです。この人にはここまで近づいて接することができるけど、別の人にはそこまではできないとか。そうしたほうが桐山零の日常としてリアリティーがあるのかなって思ったんです。僕が零のような生い立ちだったら、このくらいの距離感でないと話せないだろうなとか、もう少し近づけるかもしれないとか、自分が感じたままに演じていました。また、それに試してみたいなと思っていたお芝居にもたくさん挑戦することができ、すごく楽しかったです(笑)。

 

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──『るろうに剣心−』のときは「神木隆之介を撮り切っていなかった」ということでしたが……。

神木 それは僕も気になります。

大友 まだまだやれるなってことですよ(笑)。神木くんはよく「2.5次元俳優」みたいな言い方されるでしょ。でも、僕はそのことに対して思うことがある。僕はキャラクター化って言葉もあまり好きじゃない。キャラクター化って、つまり一人の人間を分かりやすく1個の記号にしていくということ。「キレるキャラ」みたいな。でも、さっき神木君が言っていたことと共通するけど、生きている人間は、TPOによって全然変わっていくもの。僕が実写映画をつくるという作業と、キャラクター化していくということは真逆の作業であって。生きている人間は多面体であり、ひとりの人間の中に優しさと怖さとか、矛盾しているかのようにみえるものが同居していることはよくあることです。逆に言うと、そのくらいの幅がないと人間としての膨らみがなくて、つまらないし、噓くさくなってしまう。零は普段は穏やかに将棋を指し、川本家の3姉妹の前ではおどおどしているけど、でも実は心の中にはライオンを飼っている凶暴な子でもある。キャラクター化して、一方的に決めつけるのはよくない。じゃあ、実写映画化する際に何が力を発揮するかと言えば、役の衣装に袖を通し、撮影現場に立った瞬間に俳優がその役になりきって、その役を生きる感覚なんです。その瞬間を監督である僕は見たいわけだし、そうじゃないと地に足が着いた表現にはならない。キャストを信頼して、そういう部分をベースにして撮っていくということ。それさえ成立していれば、後はどんどん自由になれると思います。

 

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神木 撮影が始まってすぐの橋を渡るシーンは、僕がまだ役をつかみ切っていなかったこともあって、何度も撮り直しましたが、途中からはとても自由に演じさせていただきました。

大友 原作コミックを撮影現場で開く必要はなかったよね。コミックの再現ではないから。今回、そのレベルに早めに到達できて良かったですよ。