ミステリとしての洗練、さらなる情報量
『search/#サーチ2』が卓越していたのは、「スクリーンライフ」という方法論の更新と実験に取り組みながら、あくまでも実験性ではなくエンターテインメント性に回帰した点だった。
監督・脚本のメリック&ジョンソン、原案・製作のチャガンティ&オハニアンは、その中できちんとサスペンス/スリラー/ミステリを成立させたのである。二転三転する展開、“全編PC画面”を活かした構成上のトリック、そして「全画面伏線アリ」という言葉通りに充実した仕掛けの数々は、ミステリ映画としても前作より進化したことの証明でもあろう。前作の事件がNetflixの犯罪ドキュメンタリー番組の中で描かれるという冒頭のシーンから、きわめてシニカルかつ巧い構成ではないか。
あえて言うならば、本作は「ミステリ」としては前作よりもかなりフェアな作りとなった。画面に目を凝らし、音に耳を澄ましながら、ジューンと同じように事件の裏を推理していけば、きっと彼女よりも早く事件の真相にたどり着けるはず。もっともそのためには、画面上に広がるめくるめく情報量を処理するスキルが求められるのだけれども‥‥。
もちろん、画面上で断片的に展開する物語にリアリティをもたらした俳優陣の演技にも称賛を送らずにはいられない。主人公のジューンを演じるストーム・リードは、『透明人間』(2020)やTV「ユーフォリア/EUPHORIA」(2019~)、TV「THE LAST OF US」シーズン1(2023)などの演技が高く評価される気鋭の若手。ほとんど一人芝居のような場面の数々さえも見事に演じきり、約2時間の映画を力強く引っ張った。
また、失踪した母親・グレイス役には『ボーイズ‘ン・ザ・フッド』(1991)などで長年のキャリアを誇るニア・ロング。コロンビアの地からジューンに協力する便利屋のハビ役を、『デスペラード』(1995)などのヨアキム・デ・アルメイダが愛嬌たっぷりに演じ、スリリングな作品のアクセントとなっている。
ちなみに、画面上の隅々に散りばめられた情報や、ときにこれまたハイスピードで繰り広げられる台詞のやり取りをなるべく逃さずキャッチするのなら、「普段は洋画を字幕で観る」という方にもあえて日本語吹替版をお薦めしたい。それでも字幕の量はかなりのものだが、きっと製作陣が本来意図したものに近い映像体験を味わえるはずだ。すさまじい情報量を一気に受け止める、この新たなミステリ映画をじっくりと堪能してほしい。
文 / 稲垣 貴俊
ロサンゼルスから遠く離れた南米・コロンビアに旅行中に突然、行方不明になった母。母を探すデジタルネイティブ世代の高校生・ジューン。検索サイト、代行サービス、SNS‥‥使い慣れたサイトやアプリを駆使し、母の捜索を試みる。スマホの位置情報、監視カメラ、銀行の出入金記録など、人々のあらゆる行動・生活がデジタル上で記録される時代に、母は簡単に見つかるはずだった‥‥。事故なのか事件なのか?何かがおかしい‥‥。不可解な出来事はSNSで瞬く間に拡散されて憶測を呼び、国境を越えて大きなトレンドになっていく。BUZZに翻弄される中、真相に迫ろうともがくジューン。そこは“秘密”と“嘘”にまみれた深い深い闇への入り口だった‥‥。
監督・脚本:ウィル・メリック&ニック・ジョンソン
原案:セヴ・オハニアン&アニーシュ・チャガンティ
出演: ストーム・リード、ニア・ロング、ヨアキム・デ・アルメイダ、ケン・レオン、ダニエル・へニー
日本語吹替版キャスト:種崎敦美、藤貴子、宝亀克寿、ファイルーズあい、志村知幸、小野大輔、木内秀信
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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