Apr 14, 2023 column

『search/#サーチ2』現代の映像感覚、ミステリ映画としての洗練

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映画の歴史は意外にも短い。19世紀後半にトーマス・エジソンやエドワード・マイブリッジがその原型を生み出してから約130~150年ほどのあいだ、人類は「映像でストーリーを語る」という行為の試行錯誤を繰り返してきたのだ。映像技術はそのつど刷新され、語りの技法も洗練されつづけてきた。

2018年製作、“全編PC画面”という触れ込みで登場した衝撃のサスペンス・スリラー『search/サーチ』もそのひとつと呼んでいいだろう。「スクリーンライフ」と呼ばれるその手法は、映画監督・プロデューサーのティムール・ベクマンベトフがホラー映画『アンフレンデッド』(2016)で提唱したもの。新鋭アニーシュ・チャガンティ監督は、ベクマンベトフをプロデューサーに迎え、緻密なシナリオをもって、誰も観たことのない映画体験を観客に届けてみせた。

続編『search/#サーチ2』は、“全編PC画面”という手法をより進化させ、さらに洗練された脚本と演出によって完成した1作だ。続編とはいえ今回は登場人物を一新し、まったく新しい事件が画面上で展開されることになる。

Z世代の安楽椅子探偵

前作『search/サーチ』の主人公は、男手ひとつで高校生の娘・マーゴットを育てるデビッド・キムだった。妻を病で亡くしたあと、不器用ながらも娘を大切にしてきたつもりだったが、ある日、マーゴットが外泊先から帰らなくなる。誰にも行方がわからないマーゴットを捜すデビッドは、不慣れなパソコンを操りながらその消息をたどった。

中年男性を主役とした前作から一転、本作『search/#サーチ2』の主人公はZ世代のティーンエイジャーだ。高校生のジューンは、恋人とともにコロンビア旅行に出かけた母・グレイスが予定通りに帰らなかったことから母の捜索を試みる。宿泊先に連絡を取って判明したのは、母と恋人が荷物をすべて置いたままホテルを去っていたこと。母親はなぜ、どこに消えてしまったのか。そして、一緒にいるはずの恋人の行方は‥‥。

ミステリの世界には「安楽椅子探偵」という言葉がある。事件現場や聞き込みに赴くことなく、主に室内だけで、入手した情報のみを手がかりに推理を繰り広げる探偵のことだ。旅先で失踪した母親を捜すジューンは、いわばZ世代の安楽椅子探偵。どうしても自分の足を使わなければならないことはあるものの、GoogleやFaceTimeをはじめ、さまざまなサイトとアプリを駆使し、遠く離れたコロンビアで起こった事件の真相を追求する。

したがって、もはや本作は“全編PC画面”という説明にとどまらない構成だ。全編が画面上で展開するコンセプトと構造は踏襲しているものの、PCだけでなくスマートフォンにスマートウォッチ、SNSや代行サイトなどを駆使することで、ストーリーテリングの幅は格段に広がった。目の前や手元の画面を通じれば、いまや私たちは世界のどこにでもアクセスでき、なんでもできてしまうのかもしれない‥‥これはそんな時代のスリラー映画なのだ。