とにかくノーブレーキでアクセルべた踏み。最初から最後までスクリーンから目をそらしているヒマなど無い疾走感とハイテンションの110分!痛快とか爽快とはまさにこういうこと。公開された『プロメア』はそんなアニメ映画だ。(作品公式サイト:https://promare-movie.com/ )
ある日、世界各地で人体発火事件が発生し、世界の半分を焼失させる大惨事に。その事件を起こした炎を操る新人種「バーニッシュ」の登場は残された人類の脅威となった。
その世界大炎上から30年。バーニッシュの危機に対処する高機動救命消防隊・バーニングレスキューの新人隊員ガロは、ある災害現場でバーニッシュへの弾圧と戦う強行的なテロ集団・マッドバーニッシュと対峙することに。
かつて自分の命を救ってくれた恩人への憧れから胸に熱い“火消し魂”を持つガロ。強力な炎の使い手で世界の敵と目されるマッドバーニッシュのリーダー、リオ。人々を助けたいガロと、バーニッシュを救いたいリオ。2人の熱い信念がぶつかり合う。だが、闘いの中でガロはバーニッシュの秘密、そして世界に隠されていた秘密を知ることになる。
監督は今石洋之。脚本は劇団☆新感線の座付作家としても知られる中島かずき。アニメファンならそれだけで「ああ!」と思うし、そもそもそのコンビだからこそ公開を楽しみにしていた人は多い。このコンビがガイナックスで手がけた『天元突破グレンラガン』(07)、そして新スタジオ・TRIGGERで手がけた『キルラキル』(13)。この2つのTVシリーズのメチャクチャとも言えるテンションの高さと熱さとスピード感は多くのアニメファンを鷲掴みにし、掴まれたものを振りほどくヒマすら与えてくれない勢いで2クールを突っ走った。
そしてこの完全新作劇場アニメ『プロメア』だ。全編徹頭徹尾、とにかく熱い。熱すぎる。よそ見をしているヒマも余計なことを考えるヒマもない。かといって勢いだけの作品なのかと言うとそれもNOだ。社会の敵とされるバーニッシュたちの、ただ生きたいということへの渇望と闘いは、世界が単純な善悪の構造ではないというドラマを短い中で見事に描いていて心に刺さってくる。まさに“スーパー娯楽作品”と呼ぶべきバトルエンタテインメントだ。
とにかく最初から最後まで徹底的にひたすら動きまくる画の圧倒的な爽快感。そのアクションが今なお伝説であるアニメーター・金田伊功の影響を受けた今石監督の作品は、『グレンラガン』も『キルラキル』もとにかく動きまくった。本作でも思う存分に動きを見せつけてくる。まさにアニメの醍醐味だ。
キャラクターの輪郭にあえて黒線を多用せず、カラフルでポップにした映像ルックはどこかアメリカのアニメーションであるカートゥーン的ですらあるしアートアニメーション的で、普段目にするアニメと違う新鮮さ。画面を縦横に埋め尽くすエフェクトなどにも本作ならではの特徴がある。全編に吹き荒れ作品の顔とも言える“炎”はあえて今風のCGとは異なるポリゴン調で表現され、キャラクターたちを表す記号も「誰が発したものであるのか」で描き分けがされている。たとえばガロたちバーニングレスキュー側は、ガロ視点の映像での光の反射も□が基調。一方でリオたちバーニッシュ側のエフェクトや光の反射、彼らの何かを示す記号は△。そしてさらに別の存在には○が使われる。エフェクトやアクセント以上に、ここまでくると映像で示す文法に近い。
松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人らを起用したボイスキャストはアニメファン以外の層への訴求力も意識した面もあるとは思うが、見ればとにかく納得できるハマり方だ。
アクション、ポップな映像、音、音楽。スクリーンやスピーカーから観客の眼と耳に入ってくる全てが刺激となり快感となる。
それ以外にも面白く感じたのは、映像をデザイン化したということだ。キャラクターデザインや背景美術デザインのことではなく、画面を構成するレイアウトのことでもない。映像そのもののデザイン。アニメだけではなく実写、映画やTV、PVなども含め。映像作品はこの世に山ほどあるが、あんがいと「映像そのもののデザイン」にまで踏み込んでいる作品となると少ない。一瞬見ただけでも他とは異なる“その作品ならでは”とわかるもの。色の使い方や文字を含めた美術の使われ方をロジカルに整理した画面。そういった特徴があり、それが見る側にきちんと伝わってくるもの。アニメであれば『物語』シリーズ、その他の実写番組ではEテレの『デザインあ』や『考えるカラス』は一瞬見ただけで「これの映像は何か他の番組と違うな」と思わされるが、そういった感覚に訴えてくるものがここで記している“映像のデザイン”だ。
もちろんほとんど全ての作品が「映像のトーン」であるとか「ルック(見た目)」を統一し作品の方向性を演出することは行っている。だがデザインはそれとはちょっと違う。これはディレクターのスキルとデザイナーのスキルは全く別のものであるので当然だ。おそらく今石監督はこの2つのスキル(あるいは才能やセンス)を持ち合わせているのだろう。 テンションや「理屈なんかよりも直情!」に訴えてくるスピード感からは『グレンラガン』の直系作品に思えるし、俳優を起用したキャストは一般層も狙っている。なら「また同じことなのか」「一般向け=薄味にしている」かといえば、この映像のデザイン性をはじめとした幾多の要素によって『プロメア』はさらに先へと加速し、全く異なる新しいチャレンジに踏み込んだことが伺える。それは“世界”だ。
日本では3月に公開された『スパイダーマン:スパイダーバース』はアニメファンに絶賛された。第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞をはじめ数々の映画賞に輝いたのも納得で、多様性などのテーマ部分が注目をされたが、キャラクターも背景も様々な手法で表現された映像ルックのファンタスティックさも反響を呼んだ。近年の主流であるスタンダードなCGアニメとは一線を画したもので、この作品も画面から感じるデザイン性は強烈な物であった。『スパイダーバース』はそういうことも含めたあらゆる要素が世界中のアニメ映画への挑戦だった。
しかし『プロメア』を見るとその『スパイダーバース』から受けた衝撃がさらに上書きされた印象すらある。手描きでこんなアクションを表現できるのは天才・金田伊功がいた日本のアニメならではだ。それだけでも十分すぎるくらいなのに、前記したポリゴン風CGの炎や色の使い方はデジタル技術がもたらした可能性をフルに活かしている。このアナログとデジタルで生み出された画をスタイリッシュに、この作品ならではのデザイン性のある画面に組み立てていく。さまざまなアニメが日本から海外へと乗り出している今。画面の全てから熱いアニメ魂で「日本のアクションアニメの最先端はここにあり!」と宣言し、高らかに打って出ているような堂々さがある。考えてみればコヤマシゲトによるキャラクターだって、海外で通用することは『HEROMAN』や、なにより『ベイマックス』で証明されている。
現時点では本作の海外展開がどうなるかはまだ発表されていない。だが、日本のアニメファンの多くはこれを見た直後に「ちょっととにかく、おまえらコレを見ろよ!」と海外のアニメファンに叫びたくなるはずだ。
今年2019年は、社会現象ともなった『君の名は。』の超ヒットをはじめ、いくつものアニメ映画が大きな話題となった16年から3年目となる。この「3年」というのは、かなり大雑把ではあるのだが多くのアニメ映画の制作期間でもある。もちろん実際には企画立案などの準備期間も含めればもっとかかっているとは思う。『プロメア』もパンフレットなどによれば構想開始からは6年だそうだ。だがわかりやすい例としては細田守監督の新作がコンスタントに3年ごとに公開されていることを考えてもらえばいいだろう。
つまりあれから3年の今年は、おそらく“あれらのヒット作・話題作”が出現したことを受けた、これまでの見方では単純にはかれない企画や表現を持ったアニメ映画が次々と出てくるのではないか?と予想されている。実際、兆しは昨年後半あたりから公開されたアニメ映画からも16年の影響がちょくちょく窺える部分があり、今年もすでにここまでの5ヶ月間に公開された作品に攻めを感じさせられた作品がいくつかある。が、『プロメア』ほど思い切りよく堂々と攻め、これまでに無かったものを見せつけてきて、それが観客の魂をガッチリと燃やした作品は初めてだろう。
劇場を出るとあまりの暑さにクラクラする。でもそれは5月ならざる異常な気温のせいじゃない。スクリーンにアテられまくり上がりまくったテンションのせいで体温が熱くなっているせいだ。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)