Apr 25, 2019 column

始まりの時を見事に切り取る 『響け! ユーフォニアム』が描く青春劇の本質

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『劇場版 響け! ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~』が公開となった。15年に放送開始となった武田綾乃の小説(イラスト:アサダニッキ)を原作とするTVアニメシリーズの劇場用完全新作だ。[公式サイトhttp://www.anime-eupho.com/ ]

舞台は京都にある高校の吹奏学部。1年生部員でユーフォニアム担当の黄前久美子を主人公に、友人や先輩たちとの関係、部員同士や親との衝突といったドラマの中、全国大会を目指す姿が描かれる青春劇。

TV第1、2シリーズでは久美子の入学から関西大会出場までの1年間が描かれ、その「あるある」描写や演奏の緻密さは吹奏楽経験者からも高い評価を受けた。この2作は再編集をし2本の劇場版にもなっている(ちなみに、以前に見た音楽番組の吹奏楽特集によれば、このシリーズの影響によってユーフォニアムの志望者が増えたとのことだ) 。 昨18年には脇キャラクターであった上級生の2人を主人公にしたスピンオフ劇場用作品『リズと青い鳥』が公開。

とにかく気持ちの良い作品だった。高校の部活を舞台とする青春劇というだけで好きな人にはたまらない題材だが、今作だけでなく『響け! ユーフォニアム』はその中でも抜きんでていた作品であると思っている。そうまで思わされるのは、シリーズ、劇場版ごとに見る側に伝えてくるものを変え、登場人物たちの成長を視聴者(あるいは観客)に、まるで共に経験しているかのように感じさせてきたことだろう。

「全国大会を目指す」という目標は全作同じだが、1、2、『リズ』『フィナーレ』と、それぞれで描いているドラマは異なっている。TV第1シリーズ(および『劇場版1』)は友情と部活の王道を行く青春劇。第2シリーズでは久美子と同じユーフォニアム奏者であるあすか先輩を巡るドラマ、先輩と親のドラマ、退部していた部員の復部を巡る部員たちの衝突などさまざまな騒動が描かれる。この『2』では数多くの事件が起こるのだが、劇場用に再編集した2作目『届けたいメロディ』は久美子とあすか先輩のドラマに絞り込んだ再構成がされており、1本の映画として仕上がっている。

秀作として数々の映画賞においても高い評価を得た『リズと青い鳥』は、卒業を前にした多感な時期の揺れ動く2人の少女のセンシティブな心象と心の距離を描いた。

大ざっぱに記すと、『1』は久美子と同級生。『2』は久美子と先輩。そして『誓いのフィナーレ』は久美子と後輩の人間関係という構図を持つドラマになる。

『劇場版2』(あるいはTV第2シリーズ)までを見ていて感心したことの1つが、高校生にとっての「たった1歳、たった2歳」の大きな差や壁をしっかりと丁寧に描いていたことだった。1、2年の年齢差は大人にとっては些細なことだろう。しかし高校生にとってはあまりにも大きい。学年の話ではなく、その1、2年で培われる人間的成長度の違い。今作ではそれが新たなドラマとなることに作用している。

1年生編の久美子にとってのあすか先輩は、はるか先にいる存在として描かれる。それが2年生へと進級し新1年生が入ったことで、今度はかつての自分たちを俯瞰した視点となる。高校2年生という「先輩でもあり後輩でもある」という時期。「久美子と後輩」という構図の中で久美子が見るのは、かつての、ほんの1年前の自分の姿に他ならない。

前記のように『劇場版2』は久美子とあすか先輩の話に絞った総集編だったが、この『誓いのフィナーレ』を見るとその構成がされたことによって、ここまでの『劇場版 響け! ユーフォニアム』3作が成長ドラマとして見事なまでに3部作構成を織りなしていたことが見えてくる。たとえば、あすか先輩は久美子にとって、高校時代の部活1年間を共に過ごした先輩というだけではなく、おそらく彼女のこれからの人生に大きな影響を残したのであろうことが感じられるなど、時間が流れていくからこそ描けている心象だ。

その3部構成。そしてとても繊細で狭い関係性を掘り下げた『リズ』がスピンオフとして入ったことによって、「“青春もの”とは何であるのか?」ということへの1つの回答を見せつけてきたように思う。

それは、青春物の核とは、10代のことが描かれていることでも部活物であることでもなく、何かが“始まる”時(時間・時期)を切り取り描いたものだということ。その“始まる時”が生み出すものが、ほんのちょっとの人間的成長だ。人間関係であったり、「この先をどう考えるのか」であったり。幾多の楽しさと同時に葛藤や衝突の中でも、登場人物たちはひたすら「その先の風景」を目指していく。

人(他者)をどう見るのか。自分はどうであったのか。距離をどう構築するのか。そして目標に向かうのか。春のこの時期だと、社会人にとっても近く感じる要素が多く、単なる青春ノスタルジーや清々しさだけではない想いがわいてくる。それは年齢を問わず、何かに本気で打ち込む全ての人の心に刺さるドラマだ。

アニメーションとしての見所、劇場用作品だからこその見所も相変わらずで、吹奏シーンは圧巻に尽きる。『ユーフォニアム』はTVシリーズでもクライマックスの吹奏シーンが大きな話題と評判を呼んだ。吹奏楽経験者からも高い評価を得た最大の見せ場だ。

演奏者個々の身体の揺れまで再現している動きは楽器を演奏していることそのものを感じさせる。その音の場面で誰を写すのか。映像のフォーカスを指先に合わせるのか、楽器に合わせるのか、それとも奏者の表情なのか。ピントをぼかす手法を「流行だから」と見てしまうことは簡単だが、『ユーフォニアム』ではそれが映像の言葉として伝わってくる。吹奏楽という集団でありながらもあくまでもそれを構成するのは個々。部活物・集団物だからといって、この作品ではありていな「みんなで仲良く」といったことにはならない。仲良しクラブではなく、あくまでも1つの目標を共有することによって生じる関係。そこから生み出される個々の音が1つの曲を生み出す。

TVシリーズの時から、ナゼ指先だけを写した短いカットにこうも心振るわされるのかが不思議でならなかった。だが、その指先それぞれが彼・彼女らの“始まりの時”から続いてきたこと全てが結実している瞬間を切り取っているからなのだ。

今作ではパンフレットよればクライマックスの吹奏シーンだけで200カット近くにもなるとのことだが、なにより映画館ならではの音響が最高の演出となる。アイドル物のアニメ作品では楽曲シーンになった瞬間に、それが応援上映ではなくとも観客の気分が盛り上がる空気が劇場内に生まれるが、それと同じように『ユーフォニアム』シリーズの吹奏シーンでは、まるで現実の演奏会場かのように、その瞬間に劇場内の空気がシン…と張りつめるのだ。あの雰囲気はあまりにも独特で劇場ならではの体験だろう。

これまでのシリーズをすでに見ている人には何をか言わんやだが、時期は都合良くこれから10連休。未見の人にはいっそここまでのTVシリーズと『リズと青い鳥』を全て見てから『フィナーレ』…というコースをおすすめしたいが、前記のように総集編である『劇場版』2本もほんとに素晴らしいので、それ+『リズ』で『フィナーレ』でもいいかもしれない。

※今作でのコンクール課題曲『リズと青い鳥』はシリーズ作中における架空の童話を題材とした曲で、この童話の物語が前作『リズと青い鳥』のキーともなっている。そもそも『リズと青い鳥』と『誓いのフィナーレ』は原作小説『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』をエピソードによって分割構成したもので同時期の出来事を描いており、シンクロしている場面もある。分割した2つの作品を繋ぐのがこの曲になる。

ところで、本作のタイトルには『フィナーレ』の文字が入っている。これまでの劇場版を通し見事な3部構成になっているとも記した。最後のセリフはその全てを象徴している。 しかし、見終えたときに久美子たちが3年生の作品を見たい!と思う人は多いはずだ。4部構成の作品となったときに彼女たちが何を発見し、成長をし、たどり着くのか。もうこれは完全にファン感情以外の何物でも無いのだが、実現しないだろうかと思ってしまう。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

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