『君の膵臓をたべたい』は、同じ原作による実写映画版が17年に大ヒットしたことも記憶に新しい。アニメ化は発表時からその意外さもあり、気になっていた。あまりこういうことは好きではないと思いつつどうしても大ヒットした実写版との比較がよぎってしまったのだが、このアニメ映画版はすばらしかった。難病を抱え余命いくばくもない少女と少年の恋愛物だが、悲劇だから泣ける作品なのではなく“その先”にある前向きな意味にこそ泣ける部分がある。アニメーションならではの感情の揺さぶり方があり、思いがけぬ心地よさに驚いて劇場を出ることになった。
秋に公開された『若おかみは小学生!』は今年のアニメ映画を語る上では避けられない作品だろう。両親を事故で亡くした少女が、古い旅館を経営する祖母のもとに身を寄せることとなり、成り行きからそこで若おかみとして奮闘する物語。人気児童文学を劇場アニメ化した本作は人物の心情はもちろん、所作(動きや仕草)、美術細部にいたるまであらゆるディテールを丁寧に描いている。後半に訪れる事件と主人公・おっこがどう向き合うのかというドラマには多くの観客が心を震わされることとなった。このことが公開直後こそ動員が低迷したものの、その後の口コミによる評判の広がりから予想外の上映拡大を見せることとなり、今なお一部劇場では上映中という事態に繋がっている。公開直後に早々に上映が終わった劇場での復活もあったなど、異例の事態も起こった。作品そのものの素晴らしさも今年のアニメを代表するものであったが、この復活劇も今年の映画興行における2大事件の1つとして記録に残るものだろう。(もう1つの興行的事件は書くまでもなく『カメラを止めるな!』だが、これについては本記事の趣旨と外れてしまうので割愛させていただく)
他にも、DCコミックスおなじみのアメコミヒーローを日本を舞台に日本でアニメ化をした『ニンジャバットマン』は、「まさにエンターテインメントここにあり!」というほどの痛快娯楽作であった。また、細田守監督の新作『未来のミライ』も今年の代表作だろう。見た人の賛否は分かれたが、その分かれ方・反応の数々にこそこの作品の意味があったのではないかと思える。 “ヒット”では春に公開された『名探偵コナン ゼロの執行人』だ。本来のターゲット観客層だけではなく、中高生を中心とした女性アニメファンに人気のキャラクター安室透がメインゲストとして登場したこともあり、女性客動員が大きく後押しをした。興行収入91.3億円と18年の興収ランキングで2位。歴代『劇場版 名探偵コナン』シリーズでは1位の大ヒットで、秋になっても上映が続いていた状態だ。(この安室透がどれくらいの人気なのかというと、公開時に彼が表紙となったアニメ雑誌『アニメディア』は売り切れ、重版となったほどなのだ)
海外作品にも魅力的な作品が多かった。『リメンバー・ミー』などディズニー系のメジャー話題作だけでなく『ぼくの名前はズッキーニ』、『犬ヶ島』といったストップモーションアニメが立て続けに公開されたことには驚かされた。この公開への入口を開いたのは昨年の『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の予想を上回るヒットであったと思うのだが、いずれもが高い評価を得ることとなったのは今後の海外アニメ公開に新たな光明を照らした出来事であったかもしれない。
その他に、長編作品ではないが、クラウドファンディングから始まったアクション作品『UNDER THE DOG Jumbled』、『メアリと魔女の花』のスタジオポノックが複数のクリエイターで挑んだ短編3作の『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』、中国のアニメ制作会社・絵梦(えもん)が『君の名は。』のコミックス・ウェーブ・フィルムと組んだ日中合同作品『詩季織々』など。短編数本からなる上映も興味を惹かれるものが多かった。現時点ではその制作意義などについてはマニア向きとなってしまい説明は難しいのだが、いずれもが野心的で、日本における(そして日本発という意味における)アニメの未来を模索する一歩となっていた作品だ。従来とは異なる制作スキームも含め、数年後に「ああ、この流れはあそこから始まっていたのか」と思うことになるのではないか?という予感をさせられるものばかりだった。