この作品は女性が見ればたぶん異なる印象だろう。希美とみぞれの間に流れているのは友情やLOVEやLIKEといった単純な言葉では表せない繊細な感情だ。正直に書けば、男性から見ると難解な関係性に感じられ、それは時に恋愛感情であるかのように思うことすらある。でもそれは、下世話ではあるが僕がオッサンであるからかもしれない。
女性の、女子高生であった人たちには全く違う印象や感動なのではないか?それを考えたときに、バカなことだと思われるかもしれないが「なんで俺、女子高生じゃないんだろう」と悔しく思った。こういう「観客によって見え方が違うのではないか?」「その、異なる立場でもこの作品を見てみたい」という印象が悔しさにも繋がったのは、2月に公開された『さよならの朝に約束の花をかざろう』を見たときにも強く感じたことだ。考えてみれば『さよ朝』も心情を単純な言語化によって説明が出来る作品ではなかった。そんな作品が立て続けに公開されている18年はアニメにおける物語の描き方・伝え方において、静かになんらかしらの変化が起こってきていることの象徴であるのかもしれない。 この作品では『聲の形』とは全く異なるアプローチと繊細さをもって「言葉」と「コミュニケーション/ディスコミュニケーション」のドラマを描き出したのだ。 アニメでは近年続々と新たな才能が注目をされ始めている。その中でいまや山田監督も間違いなく存在が大きな1人だ。映画を見た人にとっての、青春映画そしてアニメ映画というものへの印象を、更新(変化ではない)することになる作品ではないかと思う。
実はここまで、あえてそのことには触れずに書き進めてきたが、本作はTVアニメ『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ作品となる。高校の吹奏楽部を描き、緻密な描写が吹奏楽経験者からも高い評価を受けた『響け!』だが、今作の主人公である希美とみぞれはそのシリーズの脇キャラクターである。本作では『響け!ユーフォニアム』をタイトルに入れていない。このことは発表時に驚いたのだが、同時に、独立した作品として見られるものにするという制作側の無言の意思表明をも感じさせられた。そして実際に、今作に関しては見事に『響け!』を知らなくても見ることが出来る独立した1本の映画作品として成立をしている。 本シリーズも年内公開予定で完全新作劇場版の製作が発表されており、こちらはTVシリーズの主人公らによる物語となるようだ。『響け!』ファンとしてはまだしばらく楽しみが続くことになる。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)