制作の元請けは神風動画。ここを中心に、さらにCMなどで活躍するクリエイターユニット・AC部やスペースネコカンパニー。学生CGコンテストで評価された現役大学生CGクリエイター・山下諒(まこと)などといった様々な映像クリエイターが参加するスタイルで制作がされている。 アニメあり、マニアックすぎるゲームネタあり、人形アニメあり、実写あり、歌あり。もはやアニメ番組であってアニメ番組ではなく、むしろバラエティ番組に近い。いや、近いと言うよりそのもの。前記の『おそ松さん』が「面白いコント番組」、『gdメン』が「面白いトーク番組」であるのに対し、こちらは「面白いバラエティ番組」の1つだ。それも現在のTVにおいて最も面白い物の1つだとすら思う。 いくつかのインタビューを読むとさらに衝撃の発言が随所にあり、本編ともども驚かされる。前半と後半が同じであるのは「元々は15分枠番組の予定だったが、突然に30分枠になったのでこうした」だとか、内容の飛び方もだが、作品外でのこれらの弁もどこまでがネタなのかがさっぱりわからず、ファンはそれらも気になり注視し楽しんでいる。前半後半が基本的に同じ映像なので、放送では後半の映像には「再放送」の文字が入っているが、これも放送側ではなく制作側で勝手に入れている物で、もう何がネタなのかがわからない。 この「前半と後半で同じ内容だが、毎度キャストが異なる」という仕掛けは、視聴者に別の面白さも生み出している。それは声優という声のみで演じる俳優たちの、それぞれの演じ方やキャラクターへのアプローチの仕方の違いを楽しむという面白さだ。同じ画で同じキャラクターの同じボケやツッコミであっても演者によって表現が違う面白さだ。毎度キャストを替えるというのは制作的にはかなりの手間だが、わざわざやっているこの本気の手間に驚かされる。
今作では地上波の放送と同時に各配信サイトでも一斉に同時配信という方法をとっている。Twitterでの共時性とTV試聴のライブ感というのはすでに数年前からある現象ではあるが、今作でのそのライブ感はちょっとはんぱない規模だ。第7話放送後からは、作中の「『ヘルシェイク矢野』のこと考えてた」が長時間にわたりトレンドワード入りをした。「結局それは何なの??」という人はとにかく一度見て欲しい。言葉で説明されて面白さがわかるものではないのは、アニメ、マンガ、お笑い番組を問わず、この手のナンセンス物の常だ。 この第7話でAC部が手がけた実写の紙芝居芸である『ヘルシェイク矢野の伝説』は、ネットでの制作サイドの発言によれば生放送でやりたかったがかなわなかったそうだ。出来るか出来ないかの話じゃない。今どきそんなことを考える番組はどれだけあるだろう?ということにも驚かされる。 幸いにして第1話から見なくてはならないといった作品ではなく、どの回から見はじめても問題はない。再度書くが、これはもはやアニメ番組ではなく、面白いTV番組であり面白いバラエティ番組なのだ。
いくつかの作品を挙げたが、これらを見ていて思うのは、今のTVにおけるライブ感というのは必ずしも生放送のことでは無く、「出来ればOAで視聴。しかし録画で見てもかまわないが、放送という形式の状態で見ることにちょっと価値があること」なのではないか。簡単に思えるかもしれないが、この「放送という形式の状態だからこその価値」というのは存外に難しい。多くの人が配信や録画視聴に流れつつある理由の真逆になる。CMが入っていることや、CMが入るタイミングがあることも含まれるし、なにより放送と配信を同時間にやることも現在のシステムでは簡単では無い。(その意味でも『ポプテピピック』がこれをやっているのはかなり異色なのだ)
本来ならライブ感とは遠いはずのアニメからそれを考えさせられること自体に不思議な感じがするが、放送で見られる今のタイミングでこそ、体験してみて欲しい。“アニメ作品”ではなく“アニメ番組”への認識が変わるかもしれない。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)