Sep 24, 2017 column

文化をいかに繋げていくか メディア芸術祭とメディア文化を取り巻くアーカイブ問題

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僕は例年この『受賞作品展』を見に行っている。自分が好きなアニメやマンガや映画の作品についての評価に接することが出来る面白さはもちろんだが、普段の自分の視点だけでは観測範囲に入らない“興味や趣味の外”のジャンルの作品に接することが出来ることも魅力であり楽しさだ。 楽しいだけではなく、そこにある意義にも考えさせられる。芸術分野に対しての賞やイベントはいくつもある。が、この『メディア芸術祭』が大きく異なるのは文化庁という公的な“官”が主催しているところにあり、意義もそこにあると僕は思う。 その意義とは、この『メディア芸術祭』で取り上げられた作品が選出された理由は公的に後々も残るということだ。作品そのもののアーカイブが行われるわけではないが、作品が存在した事実とその評価が残ることは、アーカイブに向けての重要な一歩だ。それほどこの“残す”ということは、いま多くのメディア産業が直面している最大の課題の1つとなっている。

代表となるのは「作品そのものの保存と維持(アーカイブ)」で、映画、アニメ、マンガなど多くの分野において近年の課題となっている。何をどのように誰が、それを行うのか。 映画をはじめとした映像作品であればかつてのフィルムをどう残すのか。補修をどのように行えば良いのか。上映・視聴環境をどう残せるのか。そこには手段、人材、技術、コスト…様々な課題がついて回る。さらにいえば「デジタルでのアーカイブ化の重要性」とあわせ「アナログであるオリジナルの保存の重要性」という両面の課題があるため、火急でありながらもなかなかに進まない難しさもここにある。 映画であれば東京国立近代美術館フィルムセンターなどがこの課題に取り組んでいるが、それでも同機関だけで全てをカバーすることは予算的にも人員的にも難しい。それがアニメやTVドラマ、コミックなどとなると民間企業である制作会社や局、出版社などの課題となり、当然ながら相当にゆとりや体力が無ければ不可能である。

作品そのものについてだけではない。作品制作にまつわる資料や周辺物をどう残していくのかというのもアーカイブの問題だ。最近話題になったものでは12年から各地で開催された『館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』は特撮作品で使われた小道具やミニチュアをはじめ、制作にまつわる資料や技術をいかにして残していくのか?をテーマとした展示だった。 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズを制作する庵野秀明監督のアニメ製作会社・カラーは、16年に開催された「株式会社カラー10周年記念展」においてもこの特撮資料の保存・アーカイブに言及し、非営利活動団体(NPO)「アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)」の設立を発表した。(今年初夏に法人番号が割り振られ、内閣府にも登録がされている) これにしても庵野氏らが名乗りを上げたからこそスタートしたものであり、その負担などを考えたとき、氏らに全てを委ねれば良いということにはならないだろう。アニメーション資料なども同様だ。 今回の『メディア芸術祭』ではアニメ制作会社サンライズにおいて作品の設定資料の保全に尽力し、作品と出版などの各メディアと受け手とを繋ぐことに取り組まれた元サンライズの飯塚正夫氏が功労賞を受賞された。この、氏の受賞は氏の業績を称えるものであると同時に、アーカイブそのものの重要性がいかに高まっているのかをも象徴していたと思う。