いまや国内の配信サービスは何社にもなり戦国時代の様相を呈しているが、その結果もたらされているのが、先に書いたような日本のどこにいても大きな地域格差も無く新作アニメ番組を楽しむことができるという状況だ。 これまでは、都市部集中や、ドーナツ化といった視聴環境の変遷があったが、現代は全国のアニメファンがほぼ同時期にほとんどの新作を楽しめるという時代になっている。これは、アニメ史を振り返っても、おそらくかつて無かった状況だ。新たな時代が訪れているといえる。今は「第4次アニメブーム」だとも言われるが、そのブームは作品数だけではなく、環境そのものの変化も大きな要素かもしれない。
この新時代の訪れは、別のことをもアニメファンにもたらし始めている。 GW中の5月3日にNHK BSプレミアムで『発表!あなたが選ぶアニメ ベスト100』という番組が放送された。アニメに興味がある人にはご覧になった方も多いのではないかと思う。 残念ながら僕が投票した作品は入っていなかったが(笑)、ランキング上位作品のタイトルを見ていてとても面白く感じた。(結果は公式サイトでも掲載されているので、興味のある方はそちらを参照していただきたい。https://www.nhk.or.jp/anime/anime100/program/)
音楽のランキングなどでもそうだが、かつてはこういうランキングで上位に来るのは「わりと最近の人気作」だった。しかしこの番組での結果は「少し前の人気作」が多く目立つ。 「若い人の投票が多かったのでは」「TV離れやネット中心」という見方もあるかもしれないのだが、それ以上に僕が感じたのはネットで温度を維持し続けているファンの影響、ネットで注目される作品の影響がこうも大きいのかということだった。『ガンとゴン』『星の子ポロン』といったあまりにもマイナーな作品が100位以内にあることに驚いた人もいるかもしれないが、それもこういう状況がもたらした反応であったといえる。 そういうファンの温度の方が大きく反映され、目に見える形となったランキングであったのではないかと思う。そして、その温度の維持にネット配信も大きい影響があるのではないかと言うことだ。 配信の充実は視聴に関して大きな地域格差を無くしつつある。それは最新作についてだけではない。古今幾多の作品がラインナップされている配信においては、作品の制作・放送された時期に関しても格差を無くしつつある。 いま20歳の人であっても、配信のラインナップにあれば、その人にとって2017年の最新作も80年代のアニメも等価だ。これまでは古い作品を見るにはそれなりのハードルがあった。運良くソフト化されているとしても、ちょっと見てみたいという程度で購入するのはハードルが高い。 それを考えたとき、アニメ100年という節目の今年(2017年)のアンケートではこういう結果であったが、これが今後はまた大きく変わって行くのだろう。新作も旧作も等価となっていく中。10年後、20年後に同じようなアンケートをとったときには全く異なる結果になってるのかもしれない。
かつてファミコンが大ヒットしたとき、TVアニメにとって最大のライバルは裏番組ではなく、同じTVモニターを占拠するゲームになった。 スマホなどで動画が見られる時代になり、TVにとってのライバルは裏番組だけではなくなった。 配信サービスが当たり前になっていく中、今度は「新作にとってのライバルは、他の新作」だけではなく「過去の作品も含めた全て」になっていくのかもしれない。これはアニメだけではなく、TV番組全てにおいてだ。
配信の普及は視聴環境を変えるのだけではなく、視聴者の価値観自体をも変革させていくのではないかなあ…などということを思いながら、アニメを見ていた連休であった。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)