Jan 28, 2017 column

『クズの本懐』アニメ版・ドラマ版 同クール放送に取り組むフジテレビの挑戦

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17年1月期のTV新番組が軒並み出揃った。アニメファン、ドラマファンにとって新たな作品との出会いが楽しみな時期である。ドラマも近年は深夜に30分ほどの長さのものが各局増加しており、深夜枠ならではの変わった作品も多い。そんな中で、今期の深夜枠でフジテレビがアニメ、ドラマ双方にとって面白い試みをしている。

フジテレビは木曜深夜に「ノイタミナ」という深夜アニメ番組枠を設けている。大ヒットした『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を放送していた枠だと書けばわかる人も多いだろう。「ノイタミナ」とは「Animation(アニメーション)」の逆さ読みだ。このノイタミナ枠ではアニメファン以外の、主に女性層をもターゲットにしている。そのため羽海野チカの『ハチミツとクローバー』や、安野モヨコの『働きマン』、二ノ宮知子の『のだめカンタービレ』など、女性に人気のコミックのアニメ化も多く行われている。その枠で今期放送を開始したのが、横槍メンゴのコミックを原作とする『クズの本懐』だ。

そして同じく今期、フジテレビは水曜深夜に1本のドラマを放送開始した。 横槍メンゴによるコミックを原作とする『クズの本懐』だ。 書き間違いではない。今期、フジテレビは深夜枠で同じコミックを原作とし、アニメ版と実写ドラマ版の2つを同時に放送しているのだ。(正確に言えばドラマ版はフジテレビが運営するオンデマンド「FOD」での配信が本放送で、数日遅れでフジ地上波での放送を行っている)

これまでにもコミックや小説など、同じ原作作品がアニメ化と実写化の両方でおこなわれるケースはあった。が、今回の『クズの本懐』のように、同時期にTVシリーズが並行しての映像化展開というのは、記憶にある限り初めてのはずだ。 また、オンデマンドの番組を地上波でも放送するということは他番組でも行われてきたが、アニメ版と同時期にそれを行うというのも記憶にない。

フジテレビの狙いとしては、アニメ版から実写版へ(あるいはその逆)の視聴者の呼び込みという、相乗効果を考えているのだと思われる。アニメの制作は実写番組よりもはるかにお金がかかる。そのためアニメは、収益モデルの模索を絶えず行ってきた。この20年ほど主力であったのはソフト販売だ。が、近年、このソフト販売によるリクープの限界が言われるようになってきた。配信などは増えているものの、主力のソフト販売が伸び悩んでいる。この状況は音楽市場におけるCDソフト販売の問題と似ている。アニメ事業としては新たな手段を見つけなくてはならない。 一方、TVドラマはといえば、そもそもの若い人のTV離れが言われはじめて数年がたつ。必然、CMを見る人も減少しているわけだから、従来の放送での収益モデルが伸び悩んでいる。しかしTV離れと言っても、正確には「TVという機器を使っての視聴が減っている」であり、パソコンやスマホなどで映像を見る人は増えている。

そのため近年、民放各局もやっと重い腰を上げネットでの番組配信事業に力を入れ始めた。独自開発のオンデマンドサービスを開始したり、各局が連携して「TVer(ティーバー)」なども始めた。そうなると今度は、山のように増えた配信事業と番組の中から、いかに視聴者を呼び込むか?が課題になる。 こういう場合のオーソドックスな手法としてはメディアミックス展開だ。だがもはや“ただのメディアミックス展開”は目新しさがなく注目を集めづらい。そこで今回フジテレビが『クズの本懐』で行ったのは“ただの”ではない、“まだどこもやっていない”メディアミックスだった。さらに書けば、並行しての映像展開に加え、主題歌も共通のもの(さユりによる『平行線』)が使われており、ここも仕掛けの1つである。

効果が見込めれば新たな作品ファンや視聴者を増やすことができ、その成功は今後の放送手段(つまり製作手段)や新たな企画の開拓にも繋がるだろう。しかし、深夜とは言え同じストーリーの作品で2つの放送枠を使う上、どちらかの評判が悪ければもう一方への引き込みも絶たれてしまう可能性がある。結構な賭けである。最近では視聴率的な苦戦が話題なることが多いフジテレビだが、思わぬ冒険に出てきたと感じる。

ちょうど今、それぞれの2話までを見終えたところだが、アニメならではの見せ方、実写ドラマならではの雰囲気。それぞれの特色が大きく活かされた映像化となっており、僕はどちらも面白く見ている。

時代の流れでTV放送はこれからどんどん変化していく。番組だけでなく、それを見る手段もである。技術の急激な進歩はわずか数年後をも予測しづらくしている。今回のフジテレビの試みもそういう未来への模索だ。どのような結果を生むのか。 アニメ・ドラマファンとしても、業界に身を置く者としても、可能性が広がることに繋がれば面白いと期待している。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

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『クズの本懐』(横槍メンゴ (著)/スクウェア・エニックス)

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