Feb 28, 2022 column

『ナイル殺人事件』1978年版に続いて2度目の映画化にケネス・ブラナーはどう挑んだか?

A A
SHARE

『ナイル殺人事件』、ロケで撮るか?スタジオで撮るか?

78年版を観ていれば、ピラミッドで不意にリネットとサイモンの突如として現れるジャクリーン(ミア・ファロー)を憶えているだろう。今回も同じく、彼女が2人の前へ強烈な現れ方をするので、どの場面で現れるか期待してもらいたいが、前作との大きな違いは、現地ロケで撮るか、セットで撮るかという選択の違いにある。

前述したように、2か月にわたってエジプトロケが行われた前作は、実物を見せるという点で最高の効果を見せたが、今回はモロッコでのロケが計画されたようだが、結局、イギリスのスタジオで大部分が撮影されることになった。

ブラナー版ポアロは、『オリエント急行〜』を観ても明らかなように、VFXを駆使して人工的な世界を作り出している。筆者などは、その点が苦手だったが、今回も同様に人工的に装飾されたエジプトであり、ナイル川であり、蒸気船なのである。ところが、前作ではあまり上手く行っているとは思えなかった人工的な世界が、今回はすんなり受け入れることが出来たのは、精巧なVFXとセットだからこそ可能な見せ方、作劇に徹しており、78年版でロケによる本物志向はすでに追求され尽くしたことを思えば、真逆の作り方をすることで差異化を図っている。

実際、アブ・シンベル神殿など巨大なセットを実寸台で再現されており、実物ではとても撮ることが出来ないような趣向を劇中で見せてくれる。蒸気船カルナック号も同様で、映画の後半は船内に限定されるだけに、セットを駆使して画面を隅々までコントロールすることで、ブラナー監督はクリスティの名作を手中に収めたと言えるだろう。

また、原作は登場人物が多いために、映画化する際には毎回人員整理が行われているが、今回はそこを上手く活用して、船に乗り合わせるのは新婚旅行と共に行われた結婚式の招待客が大部分となり、さらに『オリエント急行〜』に登場したブーク(トム・べイトマン)を再登場させるというシリーズものならではの独自展開や、あるキャラクターを、人種を変えて異なる職業に就かせたりと、不要な人物を増やすのではなく、〈差し替える〉ことで原作を壊さずに2022年の映画へと昇華している。