Feb 28, 2022 column

『ナイル殺人事件』1978年版に続いて2度目の映画化にケネス・ブラナーはどう挑んだか?

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1978年版に続いて2度目の映画化に挑んだケネス・ブラナー。監督であり、エルキュール・ポアロ役でもあるブラナーが作り出した人工的な装飾にあふれた『ナイル殺人事件』の見どころに迫る。

観てから、読んだり観たりする愉しみ

新作だけでなく、古い映画も観たいが、どうやって映画を選べば良いかと訊かれることが増えた。配信で旧作が目につきやすくなっていることも影響しているのかもしれない。たいていは、自分のアンテナに引っかかる映画を観れば良いと答えるだけだが、もう少し丁寧に答えるときは、これから公開される新作の中から観たい映画をピックアップして、その関連作を観れば良いと言っている。

例えば、『ウエスト・サイド・ストーリー』を観るのなら、最初に映画化された『ウエストサイド物語』(1961) を、あるいはスティーブン・スピルバーグがミュージカル風の演出を最初にやってのけた『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)を観ておくのも良いかもしれない。それとも、『ウエスト〜』には、シャーク団が登場するのだから、『ジョーズ』(1975)を観ておくという手もある。

実際にスピルバーグ版『ウエスト〜』を観てみると、冒頭の俯瞰ショットが、まるで『レディ・プレイヤー1』(2018)のようだったし、ここ30年のスピルバーグの右腕である撮影監督ヤヌス・カミンスキーの映像は、倉庫の中の場面に外から射し込む光が、まるで『宇宙戦争』(2005)を観ているような不穏さで、本作から発展的に何かを観るなら、スピルバーグ×カミンスキーのコンビ作品を集中的に観るのも悪くない。

もっとも、新作に合わせて旧作を観るのも考えもので、『ウエスト〜』を観る前に、久々に前作を観てしまうと、流石にその印象は強烈で、新版を観ても違いにばかりに目が行ってしまう。幹を見ずに枝の比較ばかりしているようでは、あまり褒められた見方ではない。これなら観終わってから前作を観れば良かったと思ったが、あとの祭りである。

その意味では、『ナイル殺人事件』もまた、筆者の世代では、1978年に製作された最初の映画版をテレビ放送で何度も観ていた上に、DVDやBlu-rayが出るたびに買い直して再見するほど愛着があるので、新たに映画化されたと聞くと、これ幸いとばかりに、つい前作のディスクを棚から取り出したくなる。しかし、同じ轍を踏むまいとガマンして新作に接したところ、新鮮な印象で観ることが出来た。ここはやはり、原作を事前に読むか迷っている人たちも含めて、「読んでから見るか、見てから読むか」ならぬ、〈観てから、読んだり(前作を)観たりする〉を推奨したい。