Apr 17, 2017 column

サンダース版『ゴースト・イン・ザ・シェル』が描く『攻殻機動隊』の原点回帰と実写による身体性

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SFは絵空事や空想を描くためだけのものではない。『攻殻機動隊』も原作の発表開始から約四半世紀がたつが、その間のネット社会やテロの蔓延、テクノロジーの進化など。数年ごとに訪れる現実社会の変化のタイミングで、それを反映する形で映像化をされてきた。

例えば、原作および押井版のネット像は「あらゆる情報、あらゆる真実があり、それにアクセスできるツール」であり、万能性に対する幻想でもあった。対して神山による『SAC』では「ネットには本当に重要な情報はない」とネットへの幻想は失われており、続く第2シリーズ『S.A.C. 2nd GIG』(04)では人の意識を下流に押しやるツールとして批判的な面をも描いている。押井版からわずか7年間で、社会におけるネットの意味が大きく変わっていた。 未来技術の描き方も四半世紀前と13年の『攻殻機動隊 ARISE』では異なっている。多くの観客がSF的な情報を受け止められるリテラシーが発達した一方で、フィクションでそれを描く場合に「どこまで描くとかえって嘘くさくなってしまうのか」の線引きが変化してきた。

テクノロジーが加速し、人がその進歩を踏みとどまることが出来ない以上、SFで描かれる未来や現実、そして人の意識も絶えず変化していく。このサンダース版が描いたように、今の僕らはあたりまえだと思っている身体性もだ。 この実写版をきっかけに原作コミックへとさかのぼり、何が変化し、足し引きされる表現となったのか。そして現実社会の何が反映され何が変わってきたのか。それを再考してみるのも面白いだろう。 そこに、『攻殻機動隊』が様々なクリエイター個々の解釈や視点による映像化が続けられていくことの意味があるのだとすら思う。

さらに、この実写版の公開に合わせ、神山健治監督と『APPLESEED』などを手がけてきた荒牧伸志監督による『攻殻機動隊』新作アニメの制作が発表された。どのような作品となるのかは現時点では一切が不明だが、新たな技術、表現、テーマに挑んできたこの2人のタッグは驚く物を見せてくれるのではないかと、いまから期待が膨らむ。

加速的に社会の状況が変化している今、そこに描かれ、素子たちが向き合うことになるのはいったいどのようなテーマ、社会、犯罪なのだろうか。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)


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『ゴースト・イン・ザ・シェル』

『ゴースト・イン・ザ・シェル』 監督:ルパート・サンダース 出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、マイケル・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハン、ジュリエット・ビノシュ 配給:東和ピクチャーズ 公式サイト:http://ghostshell.jp/ 全国公開中

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原作紹介

『攻殻機動隊』士郎正宗/講談社

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