知られざるスピルバーグ作品
10代の知られざるフィルモグラフィーにも注目だ。サミー少年は8ミリカメラを手に取ったのをきっかけに、ホームムービーの記録係を任され、やがては16ミリカメラを手にして劇映画に着手する。
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劇中に登場するのは、第二次世界大戦の東アフリカ戦線を舞台にした『Escape to Nowhere』(1961)という戦争映画だ。スピルバーグは、影響を受けた作家にジョン・フォード、スタンリー・キューブリック、デヴィッド・リーン、黒澤明を挙げるが、当時はジョン・フォードのようなアクションに心を躍らせていたことが分かる。
西部劇に登場するような荒野を舞台に、土煙を利用して、ガンアクションの迫力を再現。サミー版『Escape to Nowhere』ではスピルバーグ自身もカメラを回したそうだが、「1961年のカメラ位置よりもっといい場所に置きたいと思う気持ちに抗えなかった」と語る。これらが後の『1941』(1979)、『太陽の帝国』(1987)、『プライベート・ライアン』(1998)といった戦争映画へつながっていくわけだ。
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この『Escape to Nowhere』では高い評価を得て、映画監督への道を決意することになるが、映画は幸せだけをもたらしただけではない。サミー少年は、キャンプ旅行中に撮影したフィルムを編集中に、フィルムの数コマから、母と父の友人の秘密を知ってしまう。サーカス団からハリウッド映画界に転身した伯父ボリス(ジャド・ハーシュ)には「芸術は栄光をもたらすが、一方では胸を裂き、孤独をもたらす」と言わせている。この少々変わり者の伯父がいい味を出している。
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