Mar 04, 2023 column

自伝的映画『フェイブルマンズ』にみるスピルバーグ作品への影響

A A
SHARE

アカデミー賞有力候補として日本公開された映画『フェイブルマンズ』。監督スティーブン・スピルバーグの自伝的作品となる物語は、彼自身の幼少期から始まる。ここでは、誰もが知る名匠はどのように生まれたのか、誰もが知る名作にはどういった影響がみられるのかを論評する。これから今作品を観る方々へ向けて、より理解が深まる助けになれば幸いだ。

名前に込められた意味

監督歴50年のスティーブン・スピルバーグによる初の自伝的映画と聞けば、ファンならずとも見逃せない。マスコミ向けの映画館での完成披露試写会で観ることができたが、その後の試写会は毎回満席続きだったそうで、スピルバーグ人気の高さが伺える。

ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ドラマ部門)を受賞。アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優賞(ジャド・ハーシュ)など7部門でノミネートされており、3月13日の授賞式でも注目が集まる。

初めての映画館で映画に魅せられたユダヤ系のサミー・フェイブルマン少年が8ミリカメラを持って、家族の記録を撮り、やがては劇映画を撮り、自身の夢を叶えていくまでの物語。サミー少年の映画製作の歩みと両親の離婚がメインに描かれる。

『フェイブルマンズ』とはフェイブルマン一家のことで、「フェイブル」とは「寓話、作り話」といった意味。Spielbergは東ヨーロッパのユダヤ人で話されている「イディッシュ語」が語源で、演劇(speil)+ 山(berg)を足したもの。本作は家族の物語であり、同時に寓話であるという二重の意味を込めたのだろう。スピルバーグは「この物語を語らずにキャリアを終えるなんて、想像すらできない。私にとってこの映画はタイムマシンのようなものだ」と語っている。