Mar 04, 2023 column

自伝的映画『フェイブルマンズ』にみるスピルバーグ作品への影響

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巨匠がやり残したこととはなにか

スピルバーグはノスタルジーの作家でもある。『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)、『オールウェイズ』(1989)、『宇宙戦争』(2005)、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)では、自身が影響を受けた名作のリメイク、再映画化した。それには、先人へのリスペクトや古き良き時代への憧憬でもあるのだろう。その中でも、自身の少年時代にスポットを当てた本作は、その究極といえる。

企画の立役者となったのはトニー・クシュナー。『ミュンヘン』(05)、『リンカーン』(12)、『ウエスト・サイド・ストーリー』でタッグを組んできた脚本家だ。『ミュンヘン』を撮影中のマルタでクシュナーが「いつ映画監督になろうと思ったのですか?」と投げかけ、スピルバーグが「秘密を教えよう」と言って、この映画の原型となる幼少期、10代の実体験を話した。本作では、スピルバーグ自身も脚本に名を連ねているが、『A.I.』(01)以来20年ぶりの脚本家というのは意外かもしれない。

2人は16年間の交友を通じて雑談やインタビューなどを繰り返す中、本作の構想を固めていった。映画化を決定づけたのは、20年の新型コロナウイルスによるパンデミックと同年8月の父アーノルドの死だという。巨匠は「やり残したことをやりたい」と強く感じたそうで、Zoomにてクシュナーを相手に少年時代の思い出を語りながら、物語を組み立てていった。

 特に、父の死は大きかったと推察される。『E.T.』のせいか、スピルバーグ作品といえば、母性という印象が強いが、本作では、父の役割がその後の人生に大きな影響を与えたことが改めて分かる。科学や未知なるものへの探究心は科学者・電気技師だった父から受け継いだDNAだろうし、8ミリカメラを買い与え、映画界入りのきっかけも作ってくれた。コンピューターサイエンスの先駆者であり、成功者。夫として、父親としても立派な役割も果たしている。離婚を切り出したのも、父ではなかったことを明らかにしている。

 本作『フェイブルマンズ』は156分の『ウエスト・サイド・ストーリー』に続き、151分の長尺。少々長さを感じる場面もあるが、編集でも切るのは難しかったのだろう。それは、少年時代の思い出を切ってしまうことにもなる。巨匠にとっては、どれもなくてはならないピースなのだ。その長い物語のラストには、大きなご褒美もある。もちろんネタバレはしないが、「これが撮りたかったのだ」と納得できた。見終わったら、巨匠のフィルモグラフィーを再度追いかけたくなる作品になっている。

文 / 平辻哲也

作品情報
映画『フェイブルマンズ』

50年にわたるキャリアの中で、史上最も愛され、変幻自在なフィルモグラフィを世界に送り出してきた巨匠スティーヴン・スピルバーグが、“映画監督”になる夢を叶えた自身の原体験を描く。初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は、8ミリカメラを手に家族の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を制作する。そんなサミーを芸術家の母は応援するが、科学者の父は不真面目な趣味だと考えていた。そんな中、一家は西部へと引っ越し、そこでのさまざまな出来事がサミーの未来を変えていく・・・・。

監督・脚本:スティーヴン・スピルバーグ

出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン ほか

配給:東宝東和

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公式サイト fabelmans-film.jp