Mar 04, 2023 column

自伝的映画『フェイブルマンズ』にみるスピルバーグ作品への影響

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映画の原体験と家族観

では、巨匠の幼少期、10代がどう反映されているのか。

スピルバーグ監督は1946年12月、オハイオ州シンシナティ生まれ、その後、アリゾナ州で育ち、カリフォルニア州に移住した。父の仕事の関係で引っ越しも多かった。父は電気技師のアーノルド(20年死去)、母は音楽家でピアニストのリア・アドラー(17年死去)。3つ下の妹には『ビッグ』などで知られる脚本家のアン・スピルバーグがいる。5歳までは暗闇を怖がっていたが、半ば両親に無理やり連れて行かれた映画館でセシル・B・デミル監督の『地上最大のショウ』(1952)を観て、大きな衝撃を受ける。このエピソードはそのままだ。

本作は世界最大のサーカス団をベティ・ハットン、コーネル・ワイルド、チャールトン・ヘストン、ジェームス・スチュワートらのオールスターキャストで描いたもの。スピルバーグ監督は特に、ラストに登場する列車の衝突シーンに魅せられる。今見ると、特撮のチャチさは否めないが、当時は大スペクタルシーンだったのだろう。サミー少年は映画館で見た衝撃をそのままに、自宅の鉄道模型でシーンを再現。モノとモノがぶつかるのはエンタメの醍醐味だと直感的に感じ取ったのだろう。それが巨匠の原点だと分かる。

出世作はクラッシュを前面に出したテレビ映画『激突!』(1971)。ささいなトラブルからナゾのトレーラー・トラックから追われるセールスマンの恐怖を描いた物語。それが邦題『続・激突!/カージャック』(1974)、巨大なホオジロザメの恐怖を描いた大ヒット作『JAWS/ジョーズ』(1975)になっていく。

スピルバーグは家族に比重をおいて作品を描いてきた。多くの作品で自身の家族や家族観が投影されている。これには、20歳だった1966年に成立した両親の離婚が大きい。離婚は多感なスピルバーグ少年にとってトラウマとなったが、それを作品として昇華している。その中でも印象深いのは『E.T.』(1982)だろう。母子家庭が背景になっていて、少年の寂しさと地球外生命との交友がクロスオーバー。そもそも、その発想も両親の離婚での経験から生まれた。

それに先立つSF映画『未知との遭遇』(1977)ではリチャード・ドレイファス演じる主人公ロイ・ニアリーの職業を電気技師に設定している。これには父への思いが込められている。『未知との遭遇』でも鉄道模型が登場するが、『フェイブルマンズ』を見ると、2つのSFの金字塔的作品が見事に重なるのだ。