Aug 06, 2017 column

第1回 『ちゅらさん』に感じる、朝の祈り

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音楽の重要性

 

『ナヴィの恋』の冒頭で流れる『ひょっこりひょうたん島』の主題歌は、後に岡田が『ちゅらさん』、『おひさま』(11年)と来て、3度目の朝ドラ『ひよっこ』(17年)を書いた時、重要な役割を果たしている。そして、『ひよっこ』では、ビートルズ好きの叔父さん(峯田和伸)が、ビートルズの次にローリング・ストーンズを意識した台詞を吐く場面があるが、『ちゅらさん』では、ストーンズ好きで知られるロックミュージシャン鮎川誠が、恵達のロックの師匠役で出演したり、劇中で『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』などが流れたりした。恵達がロック好きで(女の子にモテたいがためにロックをはじめる)、東京でデビューを果たすも、沖縄に戻って自分の音楽を追求するという物語や、えりぃのお父さん(堺正章)が何かと三線を演奏するところなど、男心をくすぐるアイテムの使い方が巧かったことも、『ちゅらさん』が、男性にも受けていた理由であるように思う。それに、弟も父親も、事業で大成するわけではないが、それを“ダメ男”とことさら責めることもなく、代わりに女が頑張っているという対立構造で描くこともなく、いい塩梅で男性陣を自由に魅力的に描いているところが、男性作家ならではの視点だろう。そして、男たちの愛する音楽が、どんな時でも、人生に寄り添い、後押ししていくところも、『ちゅらさん』の風通しを良くしていた。

 

大切な人の死をみんな抱えている

 

沖縄の人たち、東京でえりぃが住むアパート一風館の人たち……『ちゅらさん』は、彼らの群像劇として描かれている。主人公の血縁者もそうでない人も袖すり合うも他生の縁とばかりに、えりぃは濃密につきあっていく。そういうことを最初、いやがっていた人物がいる。一風館の先住人・メルヘン作家・真理亜(菅野美穂)だ。彼女は、朝ドラに不可欠な、主人公の対比となる存在で、何かにつけ、えりぃの生き方を客観視し批評していた。時に反発したり、時にその人生を絵本にしたりして。

最初は、よくあるパターンで、真理亜はえりぃに冷たいが、すぐに悪い人ではないことがわかる。その最たるエピソードが、えりぃがお土産に持ってきたサーターアンダギーを気に入って、こっそりお取り寄せするもの。その時の動作が小動物のように可愛いので、未見の方は、第5週『涙のサーターアンダギー』をぜひ、観てみてほしい(朝ドラの良いところは、トータルで観ても楽しいし、飛び飛びで観ても、だいたい理解できることだ)。
沖縄編から東京編に変わり、沖縄の楽しい空気がなくなる不安を、菅野美穂のリズミカルな演技が見事に払拭した。ユーモアあふれる役だが、彼女はいつも黒い服を着ている。それを、黒い服を好んで着ていた脚本家・向田邦子のオマージュかと思って観ていたら、後でそのワケが真理亜の生い立ちに関係していたことがわかる。彼女には妹がいたが、病気で亡くなっているのだ。そこにいろいろ複雑な事情が絡み、彼女は自分が盲腸になった時、手術をすることを怖がる。
『ちゅらさん』は基本的に明るいドラマながら、身内の死を体験した人が、それを抱えて前に進めないでいるというエピソードが何度も出てくる。東京でえりぃが暮らすアパート一風館の住人である老人・島田(北村和夫)は、医者だったが妻の手術に失敗している。えりぃの夫・文也は、そもそも、えりぃと沖縄で出会った時、兄・和也(遠藤雄弥)を亡くしている。

とても明るいドラマ『ちゅらさん』の物語の発端は、大切な人の死なのだ。
でも、『ちゅらさん』は、これらの悩みや迷いを最終的に乗り越えていく話だ。
テーマは「命どぅ宝」で、和也が死んだ時、祖母(平良とみ)はえりぃに「和也くんは神様に選ばれてしまった。この世にいる人に命の大切さを忘れないようにするために」と言い聞かせる。そして、沖縄の小浜島に「和也くんの木」が植樹され、それが折につけ、えりぃたちの拠り所になり、その名前は、えりぃと文也の息子に受け継がれる。そして、最終的に、和也は、物語をハッピーエンドに導いていく。