Aug 06, 2017 column

第1回 『ちゅらさん』に感じる、朝の祈り

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新しいコラム『朝ドライフ』が始まります。執筆は、文筆家で、先日『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)を上梓されたばかりの木俣冬さん。これまでにも、放送中の朝ドラ『ひよっこ』のプロデューサーインタビューや舞台レビューなどの記事をotoCotoで掲載中です。
それでは、木俣冬さんによる『朝ドライフ』のスタートです!

 

マイベスト朝ドラに『ちゅらさん』を挙げる人は多い

 

NHKの朝ドラこと連続テレビ小説(以下朝ドラ)は、日本の朝の顔と言っても過言ではない。1961年からずっと毎朝8時15分から、2010年からは毎朝8時から放送されている帯ドラマのシリーズ。

毎日放送される帯ドラマとしては、過去に民放でも朝や昼に放送されていたが、いずれも始まっては終わりを繰り返し、現在残っているのは、朝ドラと2017年4月からテレビ朝日ではじまった昼の帯ドラマ(第1作は倉本聰作『やすらぎの郷』)だけだ。朝のドラマは朝ドラひとり勝ちで、視聴率も常に20%前後を記録している。

昭和から平成にかけて、半世紀を超える長い時間、その時代、その時代で、視聴者の気持ちに寄り添ってきたドラマだけに、日本人それぞれの心に“マイベスト朝ドラ”がある。拙著『みんなの朝ドラ』の冒頭で「思い出の朝ドラはなんですか?」と問いかけたが、本の感想ではたいてい、私はこれが好きだった、僕はこれが……という話になる。

そんな中で、2001年に放送された朝ドラ放送40周年記念作『ちゅらさん』をマイベストに掲げる人も多い。女性のドラマという認識の強い朝ドラだが、『ちゅらさん』の場合、『ゲゲゲの女房』(10年)、『あまちゃん』(13年)と並び、男性の支持率が高い気がする(自身の周辺調べ)。

『マッサン』(15年)をはじめとして、主人公が男性の朝ドラも過去に何作かあったものの、『ちゅらさん』は女性主人公にもかかわらず、男性の心も掴んだことで、今なお多くの人の記憶に残る朝ドラになったと思う。
高い人気ゆえ、パート4まで続編も描かれたほどだ。

では、なぜ、男女問わず、みんな『ちゅらさん』が好きなのか、ここでは考えてみたい。

 

悲しいことがあっても、あくまであっけらかんと

 

『ちゅらさん』のおおまかなストーリーは、主人公のえりぃこと古波蔵絵里(国仲涼子)が、少女時代に出会った文也(小橋賢児)に運命を感じ、大人になっても追いかけ続け、思いを叶えて結婚、出産……というもの。しかも、夫と共に医療の仕事に従事するという夫唱婦随の展開となる。それを、沖縄を舞台にして(途中東京が舞台になる)、明るくのびやかな人々の生活が、時々、ファンタジックな表現も加わりながら、描かれた。

自然豊かな沖縄の風景や、共同性が強く、楽観的な人々の素敵さや、魔術的なことも当たり前に受け入れている生活習慣などがドラマの魅力で、ドラマの影響で沖縄を訪れた視聴者もいた。
だが、朝ドラではじめて沖縄を舞台にするとなった時、脚本家・岡田惠和は、沖縄の社会問題をどうするべきか悩んだそうだ。だが、あえて、そこには触れず、えりぃの誕生日を沖縄返還の日にしたこと以外、今を生きる家族の営みだけを描いた(ほんの少しだけ、沖縄の歴史に言及される場面があるが、ほんの少しだ)。

その際、参考にしたのは、映画『ナヴィの恋』(99年/中江裕司監督)だったと、拙著『みんなの朝ドラ』のインタビューで岡田は語っている。『ナヴィの恋』は、若い女性(西田尚美)と、その祖母(平良とみ)がW 主役で、老若ふたりの恋が並行して描かれる。祖母の恋には悲しい思い出もあるものの、悲しみに強くフォーカスせず、かなりあっけらかんと話は進んでいく。

その他、細かいオマージュといえば、祖母の夫(登川誠仁)の名前・恵達は、『ちゅらさん』でえりぃの弟(山田孝之)の名前になり、西田尚美演じるヒロインの幼馴染が、結婚結婚としつこいところは、『ちゅらさん』でも、幼馴染(宮良忍)が出てきて同じように振る舞っていた。