トッド・フィリップス監督の映画『ジョーカー』(2019)から5年。続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の公開は大きな期待を集めていた。しかし、前作『ジョーカー』の「CinemaScore」でB+, 映画評論サイト「Rotten Tomatoes」のフレッシュトマト68パーセントのおすすめ映画という批評に対し、今作は「CinemaScore」でD、「Rotten Tomatoes」でロッテントマト33パーセントという評価 (日本時間10月9日13時時点) 。
それでも待ち望んでいた観客は映画を早々と観に行ったが、その感想は天と地の差。前作から3倍以上の製作費をかけた『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の全米オープニング興行は40ミリオンドルを下回る結果で、前作の半分以下。対して、先月21日に生誕85周年を迎えた「バットマン」は、DCコミックスコンテンツのさらなる世界観を広げるかのように、先月末にマット・リーヴス監督映画『THE BATMAN ―ザ・バットマン―』(2022)のスピンオフシリーズ「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」がHBO(日本ではU-NEXT)で配信が始まった。今まで描かれなかった切り口でゴッサム旋風を巻き起こし、批評家からも大絶賛で好調なスタートを切った。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』アンチ・ヒーローの仮面がはがれるとき
ジョーカーの映画には逸話が絶えない。クリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』(2008)のジョーカー役を演じた俳優ヒース・レジャーが映画公開前に、28歳という若さで、遺体が自宅で発見されたのは15年前。近くには処方された睡眠薬が散乱していたという。以来、精神までも病むほどにアナーキーなジョーカーという悪役を演じる俳優が再び登場するのかが問われていた。そして2019年に誕生したのが、前作『ジョーカー』。トッド・フィリップス監督作は予算5.5ミリオンドルに対して、北米オープニング興行収入96.2ミリオンドル、プラス全世界累計興収10億ドルで合計1ビリオンドルと興行成績も記録的大ヒット。アカデミー賞では11部門でノミネートされ、ホアキン・フェニックスが主演男優賞、アイスランド レイキャビク出身の女性作曲家ヒドゥル・グドナドッティルが作曲賞を受賞し、DCコミックス「バットマン」スピンオフのジョーカー映画をセンセーショナルにリバースさせたのである。
主人公アーサーが、アンチ・ヒーローとして誕生後、5年の年月をかけて生まれる続編への期待は、前作の名場面と同じ階段の上で踊るホアキンとレディー・ガガの2ショットが予告編で流れたころから、ファンや批評家の心を躍らせた。サブタイトルの“フォリ・ア・ドゥ”は“2人狂い”を意味し、仏語で、同じ妄想を複数人で共有する精神障害のこと。
舞台はゴッサムシティのアーカム精神病棟の監獄刑務所。細くて骨のうきあがった背中で、あの狂気を隠すかのようにうずくまる痩せた囚人が主人公アーサー・フレック。刑罰の理由は、アーサーが同僚ほか、地下鉄の集団、インタビュー収録中のテレビショーホスト(ロバート・デニーロ)、さらには、自らの母親まで殺した6つの殺人罪など。裁判で死刑が下されるのか、ゴッサム中の話題となっていた。
アーサーの”ジョーカー”という仮面で行った残虐行為は、虐待された生い立ちなどに同情票が集まり、彼を有名人にした。囚人たちの中にもジョーカー崇拝者が存在。彼にキスされて有頂天になる狂人もいるなど、狂気がみなぎるさまは前作にも匹敵する。刑務所でのアーサーの扱いも特別。思いやりのある女性弁護士(キャサリン・キーナー)は建設的にアーサーの二重人格障害を証明しようと心理療法を活用して裁判の準備。アーサーに同情する刑務所護衛官(ブレンダン・グリーソン)も、刑の軽い精神病院患者が加わるコーラスグループに参加させる。
そこで出会う美しいリーに一目惚れするアーサー。ジョーカー崇拝者のリーは、アーサーのハートを軽々と射止め、「2人で刑務所から逃げ出して逃避行しよう」と生い立ちの嘘までついてほのめかす。アーサーは今まで経験したことのない恋にはまり、ふたたびジョーカーの仮面を被って妄想に酔いしれる。しかし、裁判の過程で再会する隣人たちの証言者によって、アーサー自身の人格が甦り、自らの変貌ぶりに悩みはじめる。リーはジョーカーのピエロメイクを真似てハーレイ・クインへと変貌。ジョーカーに近づくことでより一層気分を高まらせ、まさに“フォリ・ア・ドゥ”へと堕ちていく。ゾクゾクする構成なのだが、2人が恋に落ちていく様子がデュエットのミュージカル楽曲に置き換えられ、次第に観客が疎外され、いっしょに踊れない展開が待っているのである。