「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載され「まるで1本の映画を観ているようだ」、「何度も読み返したくなる」と漫画評論家や口コミの高い評価を得た、豊田徹也 唯一の長編漫画『アンダーカレント』。その後も人気は衰えず、2009年パリで開催されたジャパンエキスポにおいて、フランスの批評家と記者が選出する「第3回ACBDアジア賞」を受賞、2010年には「漫画界のカンヌ映画祭」と呼ばれるフランス・アングレーム国際漫画祭のオフィシャルセレクションに選出され、さらに2020年にフランスメディアで発表された「2000年以降の絶対に読むべき漫画100選」では、世界中の名だたる漫画がランクインする中、堂々の3位に選ばれるなど、フランスを中心とした海外でも人気を博している。
そんな本作が、『愛がなんだ』や、第35回東京国際映画祭にて観客賞を受賞した稲垣吾郎主演作『窓辺にて』など話題作を次々発表している今泉力哉の手によりついに映画化。脚本は『愛がなんだ』の澤井香織が、今泉とともに手がけている。
コミュニケーションツールが目まぐるしく発展すると共に、人間関係が希薄になりがちな今の時代だからこそ贈りたい、人を知ろうとすることの尊さを教えてくれる、心が震えるヒューマンドラマだ。
【コメント】
■今泉力哉(監督)
この世界にはそれが存在することで誰かが救われるという作品があって、そして、そういうものを生み出す人がいて、豊田徹也さんの『アンダーカレント』はそういう漫画で、豊田さんはそういう人だ。
映画化にあたり、豊田さんと何度もふたりきりで会っていろんな話をした。はじめて会った日に4時間お茶をしたのだが、まだまだ話し足りなかった。帰り際、原田芳雄さんのエッセイ『B級パラダイス俺の昨日を少しだけ』をいただいた。豊田さんは「僕はいいんだけど、登場人物が嫌な思いをしない映画にしてください」と言った。登場人物が嫌な思いをしないように。とってもすてきな言葉だと思った。コロナ禍でお茶をしたある日、会計時に自分の分のコーヒー代を、きっとこういうご時世だからだろう、衛生面からラップにくるんでご用意してくださっていて。この繊細さをきちんと映画にしたいと思った。
私はキリスト教徒なのだが、熱心な信者ではなくて、それでもたまに教会に行くと心が澄む感覚になるのだが、自分にとっての豊田さんはそういう人で、会うと心が澄む。とても繊細で面白い方で、日々、自分は映画監督に向いていないなと思いながら映画をつくっているのだが、こういう原作の映画化の話が来ることはとても光栄だし、きっと器用に生きることができない人にしか生み出せないものがあると信じて、これからも生きていきます。かなえや堀も、今もどこかで元気でいてくれたら。
映画『アンダーカレント』は、2023年秋、公開。
家業を継ぎ、夫の悟と銭湯を切り盛りする日々を送るかなえ。しかし突然、悟は失踪してしまう。行方が一向に分からず途方に暮れるかなえだったが、一時休業していた銭湯の営業を再開させる。そこに「働きたい」という謎の男・堀が現れ、ある手違いをきっかけに住み込みで働くことに。その日からかなえと堀の不思議な共同生活が始まる。友人から紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに期間限定で悟を探しながら、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。しかし、ある事件をきっかけに、堀、悟、そしてかなえが閉ざしていた心の深層(アンダーカレント)が、徐々に浮かび上がってくる。
監督:今泉力哉
原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーンKC」刊)
配給:KADOKAWA
©豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会
2023年秋 公開
公式サイト undercurrent-movie.com