朝井リョウによる同名小説を、監督・岸善幸、脚本・港岳彦で映画化した、映画『正欲』。この度、第36回東京国際映画祭にて岸善幸監督のQ&A付き上映会が実施された。映画を観たばかりの観客の質問に岸監督が回答、朝井リョウの原作小説への思いや、稲垣吾郎、新垣結衣らキャスト陣のキャスティング秘話など、貴重なエピソードを語った。
岸監督は、原作について「個人的に原作が衝撃的な内容だったので、“マイノリティ中のマイノリティ”の人々がどう世界を見ているのか、自分自身も知りたいと思い、色々調べました。物語の骨格は原作で、そこに刻まれている素敵な言葉と、現実を見つめる視点を大切にしながら、キャストやスタッフとも議論を重ねて作り上げていきました」と、あらためて映画化への思いを語った。
観客から、原作を読んで受けた衝撃について問われた岸監督は、「理解する側や受け入れる側で、多様性という言葉を認識していた自分がいる、ということを気付かされたのが何よりも衝撃でした」と、あらためてそのインパクトについて回答。
そんな原作を映画化するにあたり、原作者の朝井リョウや脚本の港岳彦、プロデューサーたちとは何度も打ち合わせを重ねたという。「特に朝井さんは、映画化で大切にしてほしいことについて、都度意見をいただいて、それを守りながら脚本も進めていきました」と、原作者含め製作陣の入念な話し合いのもと、映画作りが進められたことを明かした。
豪華俳優陣のキャスティングについて質問が上がると、検事の啓喜役で主演を務めた稲垣について「稲垣さんの出演する映画を観て、僕がお願いしました」と岸監督が熱望していたことを明かし、「啓喜役は、観る人やその時の状態によって、共感もできるし悪役のようにも見えるという、非常に難しい役どころ。稲垣さんは本当にジェントルマンでエレガントなのですが、どこか狂気性のようなものも垣間見える方で。
啓喜は“普通”の側に立つ検事ですが、だんだんと“普通”の価値観が揺らいでいき、狂気性が出てくるキャラクターなので、そういう意味で稲垣さんはピッタリでした」「最初にご本人にお会いした時も、『観客は稲垣さんを基準に映画を観て、やがて自分たちのことに翻って、あれ?と疑問が持てるような存在として演じていただきたい』とお伝えしました。啓喜役が稲垣さんですごく良かったと思っています」と、コメント。
“ある秘密”を抱える夏月を演じた新垣については、岸監督は「プロデューサーが企画の段階で新垣さんに交渉していて、新垣さんがその後原作を読まれて、ぜひやりたいと言っていただけたんです」と出演経緯を明かす。「夏月役を演じていただくことで、新垣さんに対する世間のイメージを覆すほどの存在感が示されて、映画にも相乗効果があると思いました。新垣さんには、感じたことを表現しながら演じることを最優先してもらいましたね」と語った。
夏月と秘密を共有する中学時代の同級生・佳道を演じた磯村については、『前科者』(2022)に続いての監督作出演ということもあり、信頼を寄せているという岸監督。「磯村さんは感情表現が豊かで、表情だけでなくて目や全身も使い、表現にグラデーションを感じるんです。自分でも演技設計をされていると思うのですが、相対する役者や芝居に対してもまた磯村さんの表現が生まれてくると言うか、とても信頼しています」とコメント。
さらに、「佳道という人物は、ノーマルとアブノーマルが分けづらいというか、日常的にある意味社会に紛れて暮らしています。そういう根幹に、生きづらさを感じている役なので、どう表現するかは磯村さんにまず演じてもらって、その度に対話しながら作り上げていきました」と、役作りのプロセスについても語った。
映画『正欲』は、2023年11月10日(金)より全国ロードショー。
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。
監督:岸善幸
原作:朝井リョウ「正欲」(新潮文庫刊)
出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香
配給:ビターズ・エンド
©2023 TIFF
©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会
2023年11月10日(金) 全国ロードショー
公式サイト seiyoku