物語のアイデアのきっかけについては「子供を持ち、彼らが不器用ながらも世の中を理解しようとする姿を見たとき、私自身の幼少期の思い出も蘇ってきたのです。特に、自分が何者なのかまだ分かっていない頃の子供を観察することに幸福感を覚えました。学校に子供を迎えに行くまでの時間、子供たちにはあなたと一緒にいない秘密の生活があるのです。それはとてもワクワクすることだと思いました。
大人が子供らしさを保つことは難しいと思います。私は子供から学ぼうと、幼少期の経験を思い出すようにしました。幼いころよく引っ越しをしていたので、それぞれの期間で思い出があります。5歳か6歳のとき、森の横の大きなアパートに住んでいて、今でも階段を歩いているときや森に行ったときの感覚を覚えています。幼少期の経験は幸せなものとしてノスタルジックに思い出されがちですが、知らないことも多く、恐怖の時間もあったはず。子供は素晴らしくファンタジーな想像力を持っています。子供の頃ほどの恐怖を大人になってから感じたことはありません。」 と明かすフォクト監督。
さらに「この映画を作ろうと思ったきっかけのもうひとつは、後天性の自閉症の子供を持つ作家にインタビューしたことでした。4歳までは言葉を話すことができたものの、ある日言葉を失い、自分の中に閉じこもるようになってしまったのです。もちろん、子供のことを愛していますが、子供を持つ親として、それは悪夢だと思いました。子供が殻に籠ってしまっていると思わずにはいられません。それがストーリーの一部になっています。」と自閉症の姉、アンナを描くにあたっての想いも明かした。
『イノセンツ』には登場する子供たちは7~11歳。その年齢設定への想いを聞くと、フォクト監督は「子供たちは12歳になると、ティーンエイジャーの仲間入りをし、セクシュアリティを自認しはじめます。これは確かに魅力的なテーマではありますが、本作のテーマではありません。私は子供時代を、大人になる前の流動的で魅力的な時代と位置づけたかったのです。」と回答。
さらに、『イノセンツ』というタイトルに込めた想いについては「子供は善悪の概念を超えている、もしくはそれよりも前に存在していると思います。しかし、人は純粋な心で生まれてくる、子供は小さい天使だ、とは思いません。子供は共感性も道徳も持たずに生まれてきて、私たちがそれを教えなければいけないのです。だから大人が悪だと思っていることを、子供がやってしまうと面白いのです。道徳はまだ完全に形成されておらず、より複雑です。
子供が小動物の目を突く児童心理学の研究を読んだことがあります。それは必ずしも危険の兆候ではなく、彼らは実験をしながら、違ったリズムで共感性や若さを成長させていくのです。道徳の基本は、親が「これは間違っている」「これは正しい」と教えることですが、本当の意味での道徳は人々の中に根付いていて、自分自身が「悪い」と感じることなのです。道徳の指針を見つけるには、実験して、親の教えを逸脱することが必要です。私にとって重要なのは、本作に登場する最も危険な子供が、決して悪い子供ではないということでした。子供たちは皆、人間らしさを保っているのです。」と話す。