サム・メンデス監督が初の単独脚本に挑み、サーチライト・ピクチャーズとタッグを組んだ最新作、映画『エンパイア・オブ・ライト』。1980年代初頭のイギリスのケント州北岸の町マーゲイトにある映画館を舞台に、生きていくことの複雑さや美しさを温かく繊細に描いた物語。
本作は、イギリスの静かな海辺の町・マーゲイトに存在する元映画館“Dreamland”でロケが行われた。美術を担当したのは、これまでキャリー・ジョージ・フクナガのジェームス・ボンド映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)、アンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライス主演の『2人のローマ教皇』(19)などを手がけてきたイギリスのプロダクションデザイナー、マーク・ティルデスリー。
海辺の遊園地につながる、印象的なアールデコ様式の外観を持つ、元映画館とダンスホールで構成されたDreamlandはティルデスリーがロケ地を探していくなかで発見した。その場所が気に入ったメンデス監督は、Dreamlandを下見し、それにあわせて脚本の書き直しまで行ったほどだという。
1930年代に建てられたというDreamlandはかなり傷んでいたため、ティルデスリー指揮する美術班が撮影用に大規模な改修工事を実施。時代考証に合わせて、座席や壁、プロセニアム・アーチにいたるまで歴史的な装飾が施され、美しき映画館「エンパイア劇場」として生まれ変わらせた。
滅多にない規模で手が加えられたエンパイア劇場を振り返りながら、ティルデスリーは「これは映画の筋とシンクロしています。主人公たちは、苦労を重ねてきた失意の人々です。彼らもまた、気にかけてもらい、癒してもらい、治してもらう必要があります」と語る。
メンデスの求める画とストーリーの重要な要素で、Dreamlandにはなかったもののひとつが、海を見渡せる広いアールデコ調のロビー。物語のメインの舞台であり、全ての登場人物の出会いが描かれる重要なセットを作り出す解決策として、ティルデスリーはDreamlandの近くにある広い空き地を使い、そこにロビーの内部を新たにセットで組むことを提案した。
「視覚的にインパクトのあるものにしたかった」というティルデスリーの手によって細部まで作りこまれたセットは、大胆な装飾と当時の流行りを感じさせる曲線の美しい高貴なデザインに完成。ティルデスリーは「冬は寒くて風の強い海辺から映画館に入ると、ロビーには甘いお菓子とポップコーンがあふれていて、映画が始まると別の世界に連れて行かれる、そんな感覚に陥る魅力的なロビーにしました」と、映画館の日常が伝わってくるような内装へのこだわりを明かしている。
一方、セットで作ったロビーの扉のガラスから見渡す景色と、「エンパイア劇場」の外観の画を繋ぐ必要が出てきたことで、撮影監督のロジャー・ディーキンスが苦戦したという小話も。ディーキンスは「波打ち際のセットで光が変わるので、大半は日中に撮った。グリーンバックで合成もできたが、それでは自然な感じにならない。防音スタジオで撮っていたら、あれほどの生々しさは出せなかったと思う」と、徹底してロケ撮影にこだわり抜いたと振り返る。
映画『エンパイア・オブ・ライト』は、2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
1980年代初頭のイギリスの静かな海辺の町、マーゲイト。辛い過去を経験し、今も心に闇を抱えるヒラリーは、地元で愛される映画館、エンパイア劇場で働いている。厳しい不況と社会不安の中、彼女の前に、夢を諦め映画館で働くことを決意した青年スティーヴンが現れる。職場に集まる仲間たちの優しさに守られながら、過酷な現実と人生の苦難に常に道を阻まれてきた彼らは、次第に心を通わせ始める。前向きに生きるスティーヴンとの出会いに、ヒラリーは生きる希望を見出していくのだが、時代の荒波は2人に想像もつかない試練を与えるのだった‥‥。
監督・脚本:サム・メンデス
出演:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ、トム・ブルック、クリスタル・クラーク ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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2023年2月23日(木・祝) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開