繊細さの秘密は女性の視点
では、なぜ映画監督になったのか?
「父が映画好きだったので、子供の頃カルチェ・ラタンに住んでいたときも、よく一緒に映画館に行きました。エリア・カザンとかルビッチとか、古い映画をたくさん観ましたよ。80年代になって自分で観に行くようになって好きになったのは、デ・パルマとかコッポラとかスピルバーグの映画ですね。
なので小さい頃から、漠然と映画を撮ってみたい、映画監督になりたいという夢はあったんですが、それは現実的ではありませんでした。で、長いこと経済の勉強をしていたのです。でも、大人になって就職を考え初めたとき、このまま会社員になるのではなく、一度しかない人生なのだから、挑戦したいと思い、フェミス(フランスの名門国立映画学校)に入ったんです。映画は私にとって、語りたいことを語れる表現方法だと思っています」
脚本も自ら手がけるが、モード・アムリーヌという女性脚本家と共同で執筆するという。
「編集者もマリオン・モニエという女性です。女性のスタッフと仕事をすることは私にとって重要なことです。女性の視点が、必要なので。今回も、アマンダの心情を理解したり描写したりする上で、彼女たちはなくてはならない存在でした」
『アマンダと僕』は第75回ヴェネチア国際映画祭の「オリゾンティ」部門に選出されマジック・ランタン賞を受賞。第31回東京国際映画祭では東京グランプリと最優秀脚本賞をW受賞している。第3作目にして国際的な評価を得たわけだが、ハリウッドなどバジェットの大きな作品には興味はない、という。
「16mmで撮るのもただ安いからというわけではありません。フィルムは今ではデジタルに比べれば高価ですからね。私は私のスタイルで撮っていくと思います。エリック・ロメールはあれほど世界的に高名な監督にもかかわらず、最後まで5名くらいのクルーで撮るという撮影方法を貫いていましたから」
執筆中の脚本の内容については「ジンクスにより」秘密だそうだが、次作も期待できることは間違いなさそうだ。
インタビュー・文/立田敦子
撮影/森山祐子
1975年2月6日、フランス、パリ生まれ。映画学校 FEMISに入学する前は、経済学を学んでいた。友人と数本の短編映画を制作した後、本格的に監督としての活動を開始。短編、中編を数本制作し、“Charell”(2006)がカンヌ映画祭批評家週間に選ばれる。2010年に、“Memory Lane” で長編デビューを果たし、ロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映された。その後、『サマーフィーリング』を手がけ、『アマンダと僕』(2019)が長編 3 作目。 登場人物の繊細な心の揺れ動きを、映像と音楽で巧みに表現。 日本での劇場公開は『アマンダと僕』が初めて。グランプリと脚本賞を受賞した2018年の東京国際映画祭では、上映後に会場が唸るような拍手の嵐に包まれ絶大な支持を得た。
愛する人を失った深い哀しみと喪失を経て、それでも続く人生を生きる青年ダヴィッドと少女アマンダの絆の物語。
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