May 25, 2017 interview

『美しい星』を撮るために映画監督になった!?吉田大八監督が独自の世界観を語る

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クライマックスにはあの伝説の特撮ドラマの影響が…!?

 

──原作で有名な、火星人である重一郎と「はくちょう座」から来た宇宙人たちが人類を安楽死させるかどうか討論するシーンは、テレビ局のスタジオでお天気キャスターの重一郎(リリー・フランキー)と国会議員秘書の黒木(佐々木蔵之介)が対決する迫力あるシーンになっています。かなり撮影に手間を掛かけたのではないでしょうか?

あのシーンだけで2~3日要しました。テレビ局の中という設定で、モニターにいろんな映像が映っているというシチュエーションですから、スタジオに集まったキャストのみなさんを様々なアングルから撮っていったので、集中力を切らさずにいるのが大変だったと思います。しかも、簡単には頭に入らないような難しい長台詞が続きますし。リリーさんも、蔵之介さんも亀梨くんも楽ではなかったと思います。でも、撮っていてすごく楽しかった。原作でもそうですけど、あの討論シーンが『美しい星』のクライマックスであることには間違いありませんから。

 

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──宇宙人同士である重一郎と黒木が人類の存続についてディベートするシーンを見ながら、『ウルトラセブン』(1967〜68年、TBS系)の第8話「狙われた街」でメトロン星人とモロボシダンがちゃぶ台を挟んで語り合うシーンを思い出しました。

まさに、ご指摘どおりです(笑)。僕の中の宇宙人ものの原体験って、掘り下げていくと『ウルトラセブン』です。そこまで熱心にSF映画を観てきた方ではないですから、シナリオを書いてる時に自分が自然に意識できた「宇宙人」って、『ウルトラセブン』に由来してるなって、あらためて気づいた。世代的にそうですよね(笑)。メトロン星人とウルトラセブンが狭いアパートで地球の運命について語り合うあの名シーンを子どもの頃に見てしまったら、何かがその時に決定されてしまうのは仕方ないんじゃないでしょうか。そして、今こうしてここでインタビューを受けるはめになったんだと思います(笑)

──『ウルトラセブン』を撮っていた実相寺昭雄監督も、「美しい星」をきっと読んでいたんでしょうね。

多分そうだと思います。実相寺監督や「狙われた街」の脚本を書いた金城哲夫さん、佐々木守さん……。特撮ドラマに関わっていた当時のクリエイターの方たちはみんな読んでいたんじゃないでしょうか。実は「美しい星」は原作が発表されてすぐに一度テレビドラマ化もされているんですが、脚本があの田村孟さん、監督が『帰ってきたウルトラマン』の真船禎さんです。実相寺監督をはじめとする、当時の最先端を行くクリエイターたちの琴線に触れる作品だったんだと思います。それを子ども向けの特撮ドラマの中に堂々と取り入れちゃうという。そのスピリットにはすごく勇気づけられた気がします。『美しい星』をSF映画だと自称することに多少プレッシャーを感じていたんですが、自分が撮りたい映画はそっちのほうなんだなと気づいてからは、迷いがなくなりました。

 

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地球人離れした橋本愛の眩しいまでの美貌!!

 

──懸命にUFOを呼ぼうとする火星人役のリリー・フランキーの大熱演にも魅了されますが、娘・暁子役の橋本愛の美しさも際立っています。『桐島、部活やめるってよ』出演時の美少女ぶりも良かったけれど、金星人として覚醒していく暁子の美しさは筆舌しがたいほどです。

そうですね。暁子役には橋本愛さんしかいないと最初から決めていました。

──ベストアングルから撮った橋本愛の美しい表情が厳選されているように感じます。吉田監督のCMディレクターとして活躍してきたキャリアがフルに活かされたのではないでしょうか。

きれいなものをきれいに撮ることに、全力で集中しました(笑)。そのことは橋本さんにも伝えました。「手持ちの美しさをすべて、最大限に出してほしい。それを受け止めて、しっかり撮るから」と。『美しい星』という物語の中で暁子の美しさは、彼女の枷にもなるし、彼女を解放するものでもある。周囲の人間を傷つける刃物にもなるし、自分がそれにより傷つけられることにもなる。いろんな意味を持っています。橋本さんはそのことをきちんと理解して演じてくれていました。

 

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──残酷なまでに美しい暁子だから、入院した重一郎に本当の病名を伝える役目も担うわけですね。

死にゆく肉体と美しく輝く肉体とのコントラストが出ないと、あの病院のシーンの本当の意味が浮かび上がってこない。分かって演じていないと、ただ娘が父親を残酷に突き放しているだけのシーンになってしまいます。