Dec 05, 2018 interview

2018年『カメ止め』旋風を巻き起こした張本人!上田慎一郎監督ロングインタビュー

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社会現象となったインディーズ映画『カメラを止めるな!』の面白さは、まだまだ終わらない。2018年6月に都内2館から劇場公開が始まった上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』は、口コミやSNSで話題が広まり、8月からはシネコンでの全国拡大公開となり、興収30億円以上というミラクルヒットとなった。低予算映画の舞台裏を追った『カメ止め』だが、メイキング映像や裏話たっぷりなオーディオコメンタリーをはじめとする特典満載のブルーレイ&DVDを観ることで、バックステージ映画のそのまた舞台裏を覗くというマトリョーシカ的な楽しみが生まれている。“話題の人”上田監督が現在の心境とパッケージに詰め込んだ映画愛を語った。

社会現象となっても、まだまだ『カメ止め』を止めない

──『カメ止め』の大ヒット、おめでとうございます。“カメ止め”は2018年の流行語大賞にノミネートされるほどの社会現象となりましたが、その渦中にいた心境はどうでしたか?

『カメ止め』の劇場公開が始まって5カ月が経った今も、ふわふわとした落ち着かない状態が続いています。取材や出演のオファーが殺到して、分刻みのスケジュールに追われ、目の前のことをやらなくちゃという日々ですね。正直なところ、まだ自分の置かれている状況を俯瞰して見ることができずにいるんです。

──売れっ子になることを望んでいたものの、想像以上の忙しさなんですね。

映画が話題になって、いろんなところから声を掛けていただいて、とてもうれしいことなんですが、インプットする余裕がないのがつらいですね。新しい映画を観に行く余裕もなく、家族と過ごす時間も減ってしまって。スケジュールの組み方を、うまく考えなくちゃけませんね。『カメ止め』は劇場で200万人以上の方に楽しんでいただいたんですが、まだ『カメ止め』をご覧になっていない方は大勢おられるので、少しでも多くの人に『カメ止め』を楽しんでもらおうと、まだまだ『カメ止め』を止めることなく、走り続けるつもりです。

──『カメ止め』の舞台挨拶では、女性プロデューサー役の竹原芳子さんの「人生のカメラを止めるな」などの名言が生まれています。個性豊かなキャスト陣も脚光を浴びています。

そうですね。みんな無名の俳優だったのが、劇場公開されて話題になり、芸能事務所に所属することになったキャストが多いんです。テレビドラマやCMにも出演するようになり、みんなの活躍は素直にうれしいです。自分のこと以上に良かったなと感じますね。

情けないおっちゃんの魅力をクローズアップ

──劇中劇『ワンカット・オブ・ザ・デッド』のヒロインを演じた秋山ゆずきさんも大いに注目を集めました。わずか37分間の劇中劇の間に、別人のように変貌していく姿に魅了されます。

ゆずきちゃんは30分間ほぼ走りっぱなしだったので、単純に疲れきっていたというのもあると思います(笑)。『ワンカット・オブ・ザ・デッド』の撮影は血のりを使うので1日3テイクを撮るのが限界だったんですが、本編に採用したのはいちばん最後の6テイク目でした。ゆずきちゃんは放心状態になっていて、それがすごくいい表情になったのかもしれません。人間は余力があると、余計なお芝居をしようとつい考えてしまいますからね。

──『ブラック・スワン』(10年)のナタリー・ポートマンを思わせる迫真の表情でした。そして『ワンカット・オブ・ザ・デッド』に登場するゾンビ以上に怖いのが、カメラズハイでテンションが上がりまくっている日暮監督(濱津隆之)。役と違って、素顔の濱津さんは物静かな方で驚きました。彼を主演に抜擢した決め手は?

濱津さんは普段は口数が少ないですね。僕は情けないおっちゃんが大好きなんです(笑)。これまで僕が撮ってきた映画の主人公はほとんど情けない男たちで、強い女性が支えるという設定のものが多い。『カメ止め』も男たちはおおむね情けないんですが、日暮監督の奥さんの晴美(しゅはまはるみ)や娘の真央(真魚)、撮影助手の松浦(浅森咲希奈)たちは強いんです。自分では理由は分かりませんが、僕が撮る映画は女性が強くなりがちです。

──アニメーション監督であり、『カメ止め』の衣装・タイトルデザインなどを手掛けた奥様・ふくだみゆきさんと上田監督との関係性が投影されている?

う~ん、そうなのかなぁ(笑)。ひとつには、情けない男が主人公のほうがコメディになりやすいというのがあると思います。『カメ止め』の最初のプロットは、夢と希望に溢れた監督志望の若者が1カット30分のゾンビ映画の撮影に挑むというものだったんですが、撮りたいと思っている人ががんばる話だとコメディになりにくかった。1カット30分のゾンビ映画なんて撮りたくないと、内心思っている監督が撮っているうちにやる気になってくるほうが面白いと気づいたんです。

──マイナス思考から、ポジティブな世界へと振り切れるわけですね。

『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリスもそうですよね。テロリストと戦うつもりはなかったのに、戦っているうちにノリノリになって、世界を救ってしまう。最初から「俺がテロリストたちを一掃してやる」と意気込んでいたら、観てるほうは乗れないです。「嫌だなぁ。こんなことやりたくないなぁ」とぼやきながら戦ったほうが滑稽で面白いし、観てる僕らも共感できる。監督役の濱津さんは、そんな役にぴったりでした。情けない感じが絶妙だし、カメラで寄りたくなるいい表情をするんです(笑)。

──和製ブルース・ウィリス!

どちらかと言うと、目のタレ具合いとかはシルベスター・スタローンかな(笑)。

──ブルース・ウィリスもスタローンも、おじさんになってから人気が高まりましたしね。

不器用なおじさん萌えってありますよね(笑)。多分、『カメ止め』の脚本をもっと若い頃に書いていたら、違ったものになったと思うんです。無茶ぶりするプロデューサーに対して、監督の日暮はもっと青臭いことを言って抵抗したでしょう。「俺には撮りたいものがあるんだ。あんたには分からないだろうけど」みたいな台詞を口走らせたと思います。でも、実際の人生って、思い通りにならないことがいっぱいあるじゃないですか。その思い通りにいかないことも受け入れ、今の自分にできることをやるのが現実の社会なんだなということを理解する年齢に僕もなりました(笑)。

──男も30歳を過ぎると、否応なく現実を直視せざるを得ない。

えぇ、30歳も過ぎると妥協することを覚えるわけです。理想や夢だけでは生きてはいけない。現実とうまく折り合いをつけ、思い通りにならないことも受け入れ、今やれることを全力でやることのかっこよさってあると思うんです。そのことが分かったのは、30歳を過ぎてからですね(笑)。

──そしていいタイミングで、いいキャストたちと出逢った。

その通りです!