Oct 10, 2019 interview

椎名桔平、園子温の現場は「ベテラン組も気が気じゃない」―『愛なき森で叫べ』を語り合う

A A
SHARE

映画も事件も展開が読めない状況に

――希代の詐欺師である村田を中心にした事件と同時進行で、田舎から上京してきたシン(満島真之介)たち自主映画チームによる撮影が進んでいく。実在の事件と同様に映画の撮影現場も誰がイニシアチブを握るかで、どんな作品になるか展開が読めなくなってしまう。

 まさにその通り。映画の現場も誰が権力を持っているかで、まったく違うものになっていくんです。監督以外の人間がすごい権力を持っている現場もあると聞いています。今回扱っている事件でも、勝手に家の中に上がり込んだ男がなぜかその家の中で王様のように振る舞っていたと知り、映画の現場と似ているなと感じたんです。力を持った人間が突然現れ、家庭も撮影現場も乗っ取られてしまう。どこか繋がる部分があるように思いますね。

椎名 僕も悩みながら演じました。20代からこの仕事を始めて、そこそこキャリアもあり、もう若手ではないわけです。自分なりの役づくりの仕方とかあるんですが、今回は園ワールドに自分の身を投じるつもりで、ほとんど新人のつもりで挑みました。僕が演じた村田はステージで『ピュアなハート』という曲を歌うんですが、まさに僕自身もピュアなハートで現場に臨んだんです(笑)。

 テストもやらずに、いきなり撮影本番から入っていったしね(笑)。

――オーディションで抜擢された日南響子、鎌滝えりといった若手女優たちが大熱演を見せています。椎名さんは現場でどう受け止めていたんでしょうか?

椎名 まだ演技キャリアのあまりない彼女たちがカメラの回っていないところで悩んでいても、僕からアドバイスすることはほとんどしませんでした。そのほうが今回の役に合っていたと思うし、若い俳優たちが自分のすべてを懸けて演技するという部分に感銘を受けていたんです。僕自身が20代のころにもがきながら役に向かっていったことを思い出させる現場でしたね。芝居はうまくなくても、園さんが求めているのはフレッシュさや役にぶつかっていく気合いだったと思うんです。こっちも真剣に向き合わないと、足をすくわれかねない。その日の撮影の中心にいる役でも、うまく役をつかめてないと中心から外されてしまう。園組って、そういう現場なんです。僕も含めて、ベテラン組も気が気じゃありませんでしたし、逆に活力をもらった現場でもありましたね