Oct 10, 2019 interview

椎名桔平、園子温の現場は「ベテラン組も気が気じゃない」―『愛なき森で叫べ』を語り合う

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愛も家族もただの幻想に過ぎないのか。園子温監督が実在の事件にインスパアされて撮ったNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』は、地上波テレビでは絶対に放送できない過激な内容だ。言葉巧みに被害者一家に近づき、次々と洗脳していった凶悪犯・村田を演じたのは、園作品への出演を熱望した椎名桔平。がっちりタッグを組んだ二人が、ヤバすぎる本作の舞台裏を語った。

凶悪事件はこうして園作品になった

――園監督はこれまでにも『冷たい熱帯魚』『恋の罪』(ともに11年)など実在の事件にインスパイアされた映画を撮ってきました。我々観る側もそうなのですが、人はなぜ凶悪犯罪に、そして凶悪事件を題材にした作品に惹かれるのでしょうか?

 簡単には答えられない質問だね。『冷たい熱帯魚』などを撮っていたころは、そういった凶悪犯罪ものに興味があったのはたしか。でも、その後、結婚して、幸せな生活を手に入れたことで、あまりそういった作品を撮りたいとは思わなくなったんです。今回、プロデューサーから「園さん、こういうの好きでしょ?」と口説かれてしまったわけだけど。そのころ、椎名さんと旅先で偶然逢って、「一緒に何かやりましょう」という話になったことも大きかった。犯人役を椎名さんにやってもらおうと(笑)。

椎名 微妙…(苦笑)。たしかに園さんの現場を体験したいとは思っていましたが、まさか凶悪犯罪者の役だとは思わないじゃないですか。園さんがインスパイアされたという実在の事件のこと、僕は知らなかったんです。ネットで調べましたよ。凄惨な事件で驚きました。「いやいや、この犯人役を俺がやるの?」と。

 事件をそのままドラマにはできなかった。『冷たい熱帯魚』もベースになった事件は冷酷そのものだったけど、吹越満さんが演じた架空の人物が事件に巻き込まれるという物語にすることで、一種のガス抜き効果を狙ったんです。今回でいえば、満島真之介たちが演じた映画の撮影クルーはフィクションであり、俺の若いころの体験をもとにしたもので、ファンタジーっぽさを出しています。実際の事件は怖いですよ。人が殺されるのは見たくないし、血が流れるのも嫌です。

演じるにあたり園監督をモデルにした部分も

椎名 園さんはファンタジーという言葉を使いましたけど、園さんが書いた脚本を読むとポップすぎるくらいポップなんです。でも、終盤になると園さんらしく濃厚な世界へと入っていく。落差が大きくて、まるで崖から落とされるような感覚になりました。面喰らいながら、毎日どう演じようかと悩み続けましたね。

 椎名さんの演じた村田のポップな部分は実話に基づいています。例えば、ロックコンサートを開いて自作の曲を歌うとか、会場にはそれまで付き合った女性たちを掻き集めるとか。おかしなエピソードがたくさんあるんです。

――CMスポンサーのないNetflix配信ドラマだからできた?

 真之介たちが出演した『東京ヴァンパイアホテル』(17年)をNetflixじゃないところで撮ったんだけど、全10話の脚本・監督・編集まで全部一人でやったので、「(配信ドラマは)もうやらない」と思ったんです。大変でした。でも、刺激のあるキャストが決まり、ストーリーを考えていくうちに、ほかの監督には任せたくなくなっていった。最後の最後のつもりでやってみようと。でも、本当にヘトヘトになった。

椎名 演じる側も苦しくもありましたが、楽しかったですよ。園ワールドにどっぷりと入らせてもらった(笑)。村田役を演じるうえで、園さんをモデルにした部分もあります。園さんはいろいろと変わる人なんです。園さんのそういう面も参考にしたところもあります。事件を起こした悪い奴をただ演じるのではつまらないので、どんな人間だったのかを考えながらも多角的な面を出せればいいなと。園さんも言われていたことなんですが、他人の目から見た時に、謎めいたキャラクターになればいいなと思いながら村田を演じましたね。