- 田中:
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「てやんでぇバーローちくしょー!」のこと?(笑)。
- 古川:
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あれはどうやって生まれたの?
- 田中:
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チビ太が段ボールに押し込められて、川に流されるシーンがあったんだけど、そのシーンがすごく長くて。「出せ~!」とかいろいろ考えて叫び続けるのもつらかったので、「てやんでぇバーローちくしょー!」「てやんでぇバーローちくしょー!」「てやんでぇバーローちくしょー!」って、ずーっと繰り返してたのよ、語彙が豊富じゃなかったから(笑)。そうしたらそれが受けちゃって、ついには「てやんでぇバーローちくしょー!」コーナーまでできちゃった(笑)。
- 平野:
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そんな裏話があったのね。
- 古川:
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僕は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015年)の話が聞きたいな。第1話でまさかのキャスバル少年に起用されたのにはどんな背景があったの?
- 田中:
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安彦良和総監督が「田中さんに」って言ってくださったそうです。安彦先生とは、テレビアニメ『巨神ゴーグ』(1984年)や映画『アリオン』(1986年)でご縁があったんですね。ただ、周りは全員反対しただろうな、と(苦笑)。
- 平野:
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ご指名だったんですか?
- 田中:
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はい。ただ、オーディションは受けました。(ルフィやクリリンの)イメージが付きすぎているということで、事前に確認しておきたかったんでしょうね。そんな声のヤツに池田秀一さんのキャラクターの少年時代をやらせていいのか、って。実は私も最初は「ダメです」ってお断りしたんですよ。そうしたら、安彦先生が、「僕はさ、真弓くんが、その後、どんな作品でどんな役をやってきたか一切知らないからさ、みんなみたいなイメージはないんだよ。だから僕は真弓くんの声がいいと思ったんだよ」って言うんです。
- 古川:
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なるほど。見たことがないから先入観がなかったんだ。
- 田中:
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でも、自分が自然に演じると出てしまうクセ、いわば「田中真弓色」を消すのには苦労しました。自分らしさを消すなんて、ほとんどやったことがなかったですから。
- 古川:
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成功してたと思うよ。今まで真弓ちゃんがやってきた少年役とは違った「キャスバル少年」になっていたんじゃないかな。劇場で2回見たけど、「これが真弓ちゃんか!」って驚いたもの。いつものパンチの効いた少年役ではなく、内側に色々なものを秘めた少年になっていた。
- 田中:
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シャアの子供時代ですからね、そんなクセのある演技じゃダメですよ(笑)。でも、本当に緊張した。ガンダムファンに怒られるんじゃないかって、ずっとドキドキしてたもの。舞台挨拶では謝り倒しました。すみません、すみません、って。
- 平野:
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でも、それほどまでの重責、真弓さんほどの人でないと背負いきれないでしょう。そして、なんとそれが初ガンダムなんですよね?
- 田中:
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そうなんですよ! 実は初代『機動戦士ガンダム』(1979年)にも、通行人ですら出ていませんから。それは収録中、いろんな人に驚かれました。
- 古川:
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普通にどっかで出てると思うよね(笑)。そういう意味でも安彦先生、グッジョブですね。
構成・文 / 山下達也 撮影 / 根田拓也
田中真弓(たなかまゆみ)
1月15日生まれ、東京都出身。青二プロダクション所属。主な出演作品には、「ONE PIECE」(モンキー・D・ルフィ役)、「ドラゴンボール」(クリリン役)、「ダッシュ勝平」(坂本勝平役)、「うる星やつら」(藤波竜之介役)、「天空の城ラピュタ」(バズー役)など多数ある。
古川登志夫(ふるかわとしお)
7月16日生まれ、栃木県出身。青二プロダクション所属。1970年代から活躍を続け、クールな二枚目から三枚目まで幅広い役を演じこなす。出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ「機動戦士ガンダム」(カイ・シデン役 1979~80年 テレビ朝日)、映画・TVシリーズ「うる星やつら」(諸星あたる役 1981~86年 フジテレビ)、映画・TV「ドラゴンボール」シリーズ(ピッコロ役 1986~ フジテレビ)、映画・OVA・TVシリーズ「機動警察パトレイバー」(篠原遊馬役 1989~90年 日本テレビ)、映画・TV「ONE PIECE」(ポートガス・D・エース役 1999年~)など多数ある。
平野文(ひらのふみ)
1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。