“映画らしい現場”だった母親とのシーン
──斉藤さん演じる母親と、麟太郎、美也子の3人がお通夜の最中に抜けて話をするシーンがとても印象に残ったのですが、撮影現場はどのような雰囲気だったのでしょうか。
戸田 このシーンは監督が最初から最後まで通しで撮ることにこだわってらっしゃって、ワンショットのカットを含めてとても集中力が必要な撮影でした。いい緊張感とヒリヒリ感がありましたし、お互いに「ちゃんと心と心が紡げているな」と実感しながらお芝居していたように思います。この作品の前に連ドラを撮っていたこともあって、「映画らしい現場だな」と感じたことも強く印象に残っています。
染谷 このシーンは麟太郎として「居方が難しい」と強く思ったのを覚えています。母親と姉は一歩を踏み出そうとしていますが、麟太郎だけはどこか踏み出しきれないというか。なので「どういたらいいのか…」と、正直すごく悩んだシーンでした。
戸田 美也子に関しては、あのシーンで母親を求めていたんだということがわかったというか。それまでは自分の感情を母親にぶつけてきたように見えても、根っこの部分はぶつけきれてなかったんだと思うんです。「私、期待しとったんよ」とか「始まるって思っとった」という台詞がありますが、それが一番の美也子の素直な感情なのではないかと。母親を求めていて、ただ愛されたかったんだなと思いながら演じていました。でも、そうは言っても美也子と麟太郎は母親にすごく甘えてきた部分もあると思っていて、それがわかった時に「これが家族なのかな」と感じました。
染谷 僕は悩んだまま演じたのですが、結果的にそれでよかったんじゃないかなといまは思っています。というのも、僕の中では麟太郎としても、演じる僕自身も、基本的にラストカット以外はつねに悩んでいる状態だったからです。ラストカットでようやく「それでいいんだよ」と、麟太郎も僕も言ってもらえた感覚があったので、そこですべてが繋がったというか。と言いつつも、この作品はすべてが繋がったり何かが丸く収まることが求められている映画ではない気がするので、わからなくてもいいと個人的には思っています。
──緊張感とヒリヒリ感のある現場だったということですが、斉藤さんはどのような感じで撮影に挑まれていましたか?
染谷 お芝居中もそうでない時も、一貫して“母親”として現場にいらっしゃいました。
戸田 それでいて力を入れ過ぎていないというか、余計なものを削いだ状態で演じられていました。それは斉藤さんだけじゃなく、永瀬さんと窪塚さん、染谷くんも同じで、だからこそちゃんと“家族”に見えるんだろうなと思いました。