Jan 30, 2020 interview

タナダユキ×蒼井優の"同志"が語る12年での変化、再タッグ作で感じた醍醐味

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影響を受けたテレビ番組、勇気をもらう映画

――最後に、影響を受けたり、ルーツになっているエンタメ作品を教えてください。蒼井さんは、以前に『アズミ・ハルコは行方不明』(16年)でご登場いただいた時は、星野道夫さんの『旅をする木』を挙げていただきました。

蒼井 いま、まさに『旅をする木』って言おうと思っていました(笑)。それ以外だと…どうしようかな。

タナダ こういうの、後からあれがあったなとか思い出すんですよね(笑)。じゃあ、蒼井さんが考えている間に私から。私は子どものころに、毎週土曜日にいとこの家に行って、テレビで吉本新喜劇をよく見ていたので、自分が作品を作る時は、どこかに何か、深刻なだけじゃないものにしたくなりますね。その後は、ドリフターズや『オレたちひょうきん族』をずっと見てきたので、影響はあるかもしれません。蒼井さん、思い出した?

蒼井 私は小栗康平監督の映画『死の棘』(90年)かなぁ。

タナダ 素晴らしい映画だったねえ。

蒼井 岸部一徳さんと松坂慶子さんが出演されていて、旦那さんの浮気によって関係が修復できないほどおかしくなるけど、離れることもできない夫婦を描いているんです。岸辺さんと松坂さんのお芝居のテンションがすごいなと思っていて。自分があの台本を渡されて、ああいうふうに演じたかっていうと絶対そう演じないと思うので、どういうきっかけでああいうお芝居になったのかに興味があります。

――役者として気になるということですね。

蒼井 小栗監督はあまり感情を込めないでほしいとか、音をあまりつけないでほしいという演出をされる方だというのは、小栗組を経験された先輩方から教わったんですけど、それにしてもどうしたらあんなお芝居が生まれるんだろうっていうことは、私にはまったく想像がつかない。だから自分がお芝居でわからなくなったりした時に、ふと、この作品を思い出すんです。お芝居ってそれくらい自分の想像を絶するものでいいんだ、あれくらい自由でいいんだという勇気をもらう作品ですね。

取材・文/熊谷真由子
撮影/三橋優美子

タナダユキ

1975年生まれ、福岡県出身。2001年、脚本・出演も兼ねた初監督作品『モル』でPFFアワードグランプリおよびブリリアント賞を受賞。劇映画『月とチェリー』(04年)が英国映画協会の“21世紀の称賛に値する日本映画10本”に選出され、蒼井優を主演に迎えた『百万円と苦虫女』(08年)で日本映画監督協会新人賞を受賞。ほかの監督作に、『俺たちに明日はないッス』(08年)、『ふがいない僕は空を見た』(12年)、『四十九日のレシピ』(13年)、『ロマンス』(15年)、『お父さんと伊藤さん』(16年)など。ドラマ作品に『昭和元禄落語心中』(18年)などがある。

蒼井優(あおい・ゆう)

1985年生まれ、福岡県出身。2001年に『リリイ・シュシュのすべて』で映画デビュー。『フラガール』(06年)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、新人俳優賞をダブル受賞したほか、国内の映画賞を総なめにした。『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の映画賞を受賞。近年の主な映画出演作に『斬、』(18年)、『長いお別れ』『宮本から君へ』(19年)など。今後の待機作に、ドラマ『スパイの妻』(春放送/NHK BS8K)、映画『るろうに剣心 最終章 The Final』『~The Beginning』(夏公開)がある。

公開情報
『ロマンスドール』

美人で気立てのいい園子(蒼井優)に一目惚れして結婚した哲雄(高橋一生)が、彼女にずっと隠し続けている仕事、それはラブドール職人としてドールを作っていること。平穏に過ぎていく日常のなか、哲雄は仕事にのめり込み、恋焦がれて結婚したはずの園子と次第にすれ違っていく。いよいよ夫婦の危機かと思った時、園子はぽつりと胸の中に抱えていた秘密を打ち明けた。
原作:タナダユキ『ロマンスドール』(角川文庫刊)
脚本・監督:タナダユキ
出演:高橋一生 蒼井優  浜野謙太 三浦透子 大倉孝ニ ピエール瀧  渡辺えり きたろう
配給:KADOKAWA
公開中
©2019「ロマンスドール」製作委員会
公式サイト:romancedoll.jp

書籍情報
『ロマンスドール』角川文庫刊/タナダユキ