Jan 30, 2020 interview

タナダユキ×蒼井優の"同志"が語る12年での変化、再タッグ作で感じた醍醐味

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小説執筆の裏側、映画化への道程

――タナダ監督にお伺いしたいんですけど、本作のインスピレーションはどこから得たのですか?

タナダ おおもとは、どこかのおじさんが「男の最高の死に方は腹上死だ」って言っている何かの記事を読んで、「ちょっと待って、それは男だけじゃないのでは?」と思ったことがまずありまして。その後、想像を超える高いクオリティのラブドールの存在を知って、ここまでのすごいものはいったいどういうふうに作られているんだろうと興味を持ったんです。それにもともと私は職人に対する憧れがあって。例えば映画のチームでも撮影部さんが言うレンズのことだったり、録音部さんが何とかデシベルと言ってたり、ほかにも照明部さんにもいろいろあるんですけど、演出部にはそういう数値にできる基準が何もないからっていうのもあるかもしれません。

――たしかに演出部にはないかもしれないですね。

タナダ ラブドール造形士は非常に高度な技術をもった職人なんですけど、ジャンルがアダルトというだけで、素晴らしいものを作っていても国宝にはなれない可能性が高いと思うんです。それでも日々技術を磨いていらっしゃる。そんな彼らへの尊敬の念と、さらにそこに夫婦って何だろうという想いも絡んできて、あの物語ができていきました。

――蒼井さんは原作を読んだ時に、タナダさんご自身が映画化されないのかなと思ったとおっしゃっていましたが、原作のどんな点に魅力を感じましたか?

蒼井 人が同じ角度ですれ違っていくというか、文章を追いながら、頭の中で線がスーッと通っていく感じ…。まるで図式を見ているような感覚になったんです。そういう感覚になったのが初めてだったし、いろんなことが起きつつも見えてくる図式がいたってシンプルっていうのがものすごくタナダさんらしくて最高だなと思いました。映画化されるんだろうなと思っていたら、全然予定がないっておっしゃっていて。

タナダ 「映画化しないの?」って聞かれた時に、「誰ができるの?」って逆に言った覚えがある(笑)。

蒼井 あははははは(笑)。

タナダ 当時、(蒼井さんは)20代前半だったもんね。俳優さんもそうですけど、やっぱり女優さんにかかってくる負担もとても大きいし、30代で想定してたから誰ができるのかなぁって。蒼井さんが30代だったらっていうのは胸の内に秘めておいて(笑)。

――じゃあタイミングとしては蒼井さんが30代になられて。

タナダ 私が小説を書いた当時はまだラブドールの認知度も低かったんですよね。でもオリエント工業さんが毎年、人形の展示会を開催しているんですけど、2017年に渋谷で開いた際は30分待ちくらいの行列になっていたんです。私も行きましたけど、何に一番驚いたかって、半分以上が女性のお客さんなんです。それを見た時に時代は変わったなと思いました。小説を書いていた時は、そういう会社に問い合わせるだけでシャッターを閉ざされる感覚があったんですけど、2017年の時はウェルカムだったし、いまだなと思っていたところに、(蒼井のほうを向いて)あれ、30代になってるっていう(笑)。

蒼井 そうですね(笑)。

タナダ とはいえ断られると思ってたんですが、最初に蒼井さんに聞いてみたいなと思ったら、やるって言うから逆にびっくりしたという(笑)。

蒼井 だいぶ前に小説を読んだっていうこともあるけど、勝手にもう私は園子の年齢は過ぎてしまったかなっていう感覚があったから、私でも間に合うんだって思いました。