Feb 18, 2020 interview

官能小説を大胆に映画化、三島有紀子が映画『Red』で描く“選択”と“生き方”

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何度見返しても古くならない名作

――“三島有紀子”は本名なんですね。名前を付けられたお父さまは文学好き、三島由紀夫ファンだったようですね。

はい、本名です。せっかく姓が三島なので、私の名前を“三島由紀子”にしようと父は考えていたそうですが、母に反対されて一字だけ変えることになったんです。父は文学も好きでしたし、映画も好きで、建築物も好きでした。芸術全般を愛している人でした。私が子どものころはよく建物を観に連れて行かれました。クリスチャンでもないのに、教会の建物を見学に行ったりしました。父からの影響はかなり大きく受けていると思います。家にあった三島由紀夫の全集を小学生の時に読もうとしたんですが、よくわかりませんでしたし、好きな文体ではありませんでした。でも、高校生になってから読み返すと、文学者である三島由紀夫はこの世界をどう美しく感じていたのかを、美しい文体で書き残した人なんだなと感じるようになりました。父も三島文学ならではの美学を愛していたんだと。世の中の何を美しいと感じるかを形にして残していくことが作家なんだ、ということを教わったように思います。私の場合は、苦しみもがきながらも生きている人間の姿が美しいと思っているので、カメラを通してそんな人を撮っていきたいし、そんな人たちと一緒に映画を作っていきたいですね。

――三島監督が何度も読み返している本や作品があれば教えてください。

いっぱいありすぎて、選べませんけれども(笑)。音楽なら、映画『Red』で流れる『ハレルヤ』が収録されているジェフ・バックリィの唯一のアルバム『Grace』は、ずっと繰り返し聴いてきた一枚です。映画なら、フランソワ・トリュフォーですね。父に連れられて、小さいころから名画座に通っていたんですが、フランソワ・トリュフォーとクロード・ルルーシュの監督作がよく上映されていたんです。そのころに観たトリュフォーの代表作『突然炎のごとく』(62年)ももちろん好きな作品ですが、もう少し大きくなってから観た『隣の女』(81年)は繰り返し何度も見返している作品です。家庭を持つ男(ジェラール・ドパルデュー)の家の隣に、昔の恋人(ファニー・アルダン)が引っ越してきてしまうという何でもないお話ですが、人間にはいい悪いではなく、どうしようもないこともあるんだということを教えてくれる作品でした。『Red』にも繋がっていると思います。トリュフォーの作品は男と女の関係を深い部分から描いていて、まったく古臭さを感じさせないので、何度でも繰り返し観てしまいますね。

――漫画では楳図かずお作品が好きだそうですね。『幼な子~』で父親を演じた浅野忠信、『Red』で母親を演じた夏帆も、子どもの前で突然別人のようになってしまう。楳図かずおのホラー漫画に通じるものも感じさせます。

そうでした、楳図かずおさんの漫画も繰り返し読んでいました(笑)。楳図かずおさんの短編集『恐怖』を小学生のころに読んで、一度ファンレターを出したことがあります。「あなたは本当の天才だ」と。なんという上から目線の小学生だったんでしょうか(苦笑)。たしかに楳図かずおさんの漫画には外見はお母さんなのに、中身は違う別人になってしまう作品がありますよね。一番身近な人が別人に変わってしまうのは、大変な恐怖だと思います。また、自分自身が変化する恐怖も描かれていますよね。楳図かずおさんの漫画は愛を業ととらえているものも多いと思います。愛は時として人を救いもするけど、時として酷い目にも引き合わせる。楳図かずおさんも忘れられない、大切な作家です。

取材・文/長野辰次
撮影/三橋優美子

プロフィール
三島有紀子(みしま・ゆきこ)

1969年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、NHKに入局し、『NHKスペシャル』や『トップランナー』などのドキュメンタリー番組を担当する。退局後、谷崎潤一郎原作の『刺青 匂月のごとく』(09年)で映画監督デビュー。以後、オリジナル脚本で『しあわせのパン』(12年)、『ぶどうのなみだ』(14年)を発表。『繕い裁つ人』(15年)、『少女』(16年)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(18年)などを監督。重松清原作の『幼な子われらに生まれ』(17年)はモントリオール世界映画祭審査員特別大賞など多くの映画賞を受賞した。ほかの監督作にドラマW『硝子の葦』(15年)など。

公開情報
『Red』

大雪の夜、車を走らせる男と女。
先が見えない一晩の道行きは、二人の関係そのものだった。
誰もがうらやむ夫、かわいい娘、“何も問題のない生活”を過ごしていた、はずだった村主塔子(夏帆)。10年ぶりにかつて愛した男・鞍田秋彦(妻夫木聡)に再会をする。鞍田は、ずっと行き場のなかった塔子の気持ちを、少しずつほどいていく…。しかし、鞍田には“秘密”があった。現在と過去が交錯しながら向かう先の、誰も想像しなかった“選択”とは――。
原作:島本理生『Red』(中公文庫)
監督:三島有紀子
脚本:池田千尋、三島有紀子
出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗 ほか
配給:日活
R15作品
2020年2月21日(金)公開
©2020『Red』製作委員会
公式サイト:redmovie.jp

書籍情報
『Red』島本理生/中公文庫

© 島本理生/中央公論新社