Feb 18, 2020 interview

官能小説を大胆に映画化、三島有紀子が映画『Red』で描く“選択”と“生き方”

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直木賞作家・島本理生の初の官能小説として話題を呼んだ『Red』が、夏帆主演映画として劇場公開される。夫も子もいるヒロイン・塔子(夏帆)が、職場の上司・鞍田(妻夫木聡)と激しい恋に陥るというR15指定の映画だ。現在28歳になる夏帆から、妻・母・女と多面的な顔を引き出して見せたのは、『幼な子われらに生まれ』(17年)がモントリオール世界映画祭で審査員特別大賞を受賞するなど高い評価を受けた三島有紀子監督。夏帆と妻夫木との大胆に愛し合うシーンや原作にはない映画オリジナルの主人公の選択に込めた想いを三島監督が語った。

“一番近い他者”との出会い

――『Red』は清純派から演技派へと成長を遂げた女優・夏帆による、現代のヒロインものの作品としてとても見応えがありました。

夏帆さんとは『ビブリア古書堂の事件手帖』(18年)などでご一緒したんですが、非常にストイックに仕事に取り組む方です。いい意味で、とても悩みながら役に向き合ってくれる。妻夫木聡さんにも、それは言えることなんです。そんな夏帆さんや妻夫木さんのこれまで見せたことのない新しい顔を見てみたいと、私自身がワクワクしながら撮った作品です(笑)。

――原作はかなり過激な官能小説です。

実際の夏帆さんは劇中の塔子のような恋愛体質ではないと私は思っているんですが、そんな女性が人を一途に愛する役に真っ直ぐに向き合った時、どんな表情を見せてくれるんだろうという期待がありました。かつて愛した男・鞍田(妻夫木聡)と再会し、ベッドインする時、自分が知らなかった内面が溢れ出てくる。その一部始終を見せたいと思い、塔子と鞍田のベッドシーンはずっとカメラを回し続けたんです。その間の夏帆さんと妻夫木さんの表情や吐息までも執拗なほどカメラで追っています。二人にとっては、かなり過酷な撮影現場だったと思いますが、その変化を繊細に撮れたと感じます。

――『幼な子われらに生まれ』でも大人の男女のヒリヒリする関係が描かれていました。原作者は異なりますが『Red』は、『幼な子~』の延長線上にある作品と言えそうですね。

『幼な子~』は、男と女を撮りたいと思い、脚本家の荒井晴彦さんに会いに行ったことが始まりでした。浅野忠信さんと寺島しのぶさんがケンカした後にあるベッドシーンの二人のやり取りを見ていて、恋愛って一番近い他者との触れ合いなんだなと実感したんです。一番近い他者と触れ合うことで、自分も知らない内なる自分に目覚めていく。そんなテーマの作品を撮りたいなと思うようになりました。

――恋人や夫婦は“一番近い他者”ですか。

私はそうなのかなと考えてますかね。一番近い他者と触れ合い、ある種の化学反応を起こすことで、自分の本質も現れてくると。剥き出しにされることで、見たくなかった自分に会うことになるかもしれませんが、でもそれも本当の自分かなと。他者を遮断して、自分の内なる声を聞こうとしても、いまのように情報の多い時代はなかなか難しいですよね。その象徴が塔子じゃないかと思うんです。周囲に合わせ過ぎて、自分の本当にやりたいことも、嫌なことも、すべて押し殺してしまっている。塔子はある意味では、とても現代的な女性に設定したいと思いました。そんな彼女が一番近い他者に出会うことで、自分自身をどう見つめるのか、その結果としてどんな生き方をするようになるのかを、つぶさに追ってみたかったんです。