- 平野:
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『恐妻家族』で声優デビュー後、29歳で青二プロダクションに入って、すぐ『ゲッターロボ』(1974年)にレギュラー出演されることになったんですね。最初はどんな役だったんですか?
- 緒方:
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それが、いきなり悪の親玉(バット将軍)に抜擢されてしまって……。青二に入るまではチョイ役ばかりだったんだけど、入所した以降はセリフの多い役が急に増えました。実は青二に入ることが決まった時、生活費と劇団の維持費を捻出するため、月給6万円(1974年の大卒初任給は約8万円)を保証して貰えるようお願いしていたんです。でも、蓋を開けてみたら演劇をやるのが難しくなるくらいレギュラーがバンバン決まっちゃって逆に困っちゃった。
- 平野:
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まさにうれしい悲鳴ですね。でも、そんな風に役が決まっていったのはなぜなんでしょうか?
- 緒方:
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当時29歳だったんですが、やっぱり下積みが長かったからじゃないですかね。児童劇団で地方を散々回って、いろいろな役をやらせてもらっていたのがすごく役に立った。あと、その頃の僕はめちゃくちゃ燃えていたんです。おとぼけキャラから、憎たらしい悪役まで、とにかくいろいろな役を極めてやろうってガツガツした気持ちがあった。
- 平野:
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その当時からもう、緒方さん特有のギャグとかは入れ始めていたんですか? 私、アドリブをする時、どこまでやって良いのかがいまだによく分からなくて……。
- 緒方:
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アドリブとは言え、セリフをそっくり差し替えちゃうというのはやらないね。書いてあるものを丸ごと無視しちゃうのは脚本家に失礼ですから。ちゃんと書かれていることを言いつつ、ちょっと早口で喋ってギャグを突っ込む(笑)。
- 平野:
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脚本家、演出家への敬意は忘れないんですね。
- 緒方:
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でも『名探偵コナン』(1996年~)では、だんだんアドリブを突っ込めない脚本になってきていて……。尺があると余計なことを言うから、どんどんセリフがシンプルになってきているんですよ。なんか警戒されている気がするな~(笑)。
- 平野:
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でも『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)のように、緒方さんのアドリブによってキャラクターが生き生きと動き出すというケースもありますよね。
- 緒方:
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アナライザーのことですね。あれは当初、機械的に喋るように指示されていたんですよ。でも、アナライザーって酒を飲んだり、女性のスカートをめくったり、ちょっとヘンなヤツなんです。これを普通のロボットしゃべりで演じたら面白くないよね。それで、少しずつ、少~しずつ、人間っぽい演技に切り替えていっちゃった(笑)。
- 平野:
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最後には緒方さんにしか演じられないキャラクターになっていましたよね。
- 緒方:
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そう思っていただけたのなら成功ですね。
- 平野:
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『あたしンち』(2002年~2009年、2015年~2016年)のお父さん役はどうでしたか?
- 緒方:
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彼もね~、『うる星やつら』のお父さんと同じで無口なヤツなんですよ。セリフが少ないのでギャグもなかなか入れられない。ただ、酔っ払った時に部屋を片付け始めるとか、ちょっと変わったクセがいくつかあるので、そういうところにギャグを滑り込ませたりしてました。あとは、九州出身という設定だったので、地元から友人が遊びに来たときだけ九州弁にしたりとか、かな。ただ、『あたしンち』ははお母さんが主役の作品なので、あんまり無茶なことはしないようにしていたね。
- 平野:
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アドリブを入れる場合でも、あくまで役どころを考えて、と。
- 緒方:
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そうそう。僕は余計なことはしない。『うる星やつら』でメガネ役をやっていた千葉繁って声優、知ってますか?(笑) アイツはもう、そんなのお構いなしにアドリブを入れるけど、僕は理に適ったアドリブしかしませんからね!
- 平野:
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ああ、千葉さん!(笑) 千葉さんにもいつかお話をおうかがいしたいですね。そして千葉さんと言えば、当時、『うる星やつら』の収録の合間にスススッと緒方さんが近付いて「オレたち、よく生きてるよなぁ」とおっしゃっていたのを良く覚えています。千葉さんが言うには、自分の頭蓋骨の中には豆腐が入っていて、ギャグを絶叫するシーンで、その中身がぐしゃぐしゃになるんだ、って。
- 緒方:
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相当、内出血しているよね(笑)。でも僕はアイツほど声を張り上げないから大丈夫。
- 平野:
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『魔法陣グルグル』(1994年)のキタキタおやじなんかはハイテンションで演じられていたのではないですか?
- 緒方:
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あれは歌って踊りまくりましたね。ただ、それが具体的にどんな踊りなのかは示されていなくて。当初予定では実際のハワイアンを使うことになっていたのですが、それだとお金がかかるじゃないですか(笑)。だから何となくアレンジして、それっぽい歌い方を編み出したりしていましたね。
- 平野:
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あの面白さは緒方さんにしか出せません。
- 緒方:
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確かにあれは脳の血管が切れるかも(笑)。でも、そういうふうに役に入り込んでテンションを上げていくことで得られる充足感も確かにあると思うんです。「今日もやりきった!」って思える。
- 平野:
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さて、先ほど『うる星やつら』の話題が出てきたところで改めてお聞きしたいんですけど、あの「ローンが」というギャグはどのように生み出したんですか? セリフ自体は原作や台本にもありましたが、しゃべり方を決めたのは緒方さんですよね。
- 緒方:
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あれは困りました。ふだん喋らないひとがぼそっと一言喋るというのはとても難しいんです。あの「ローンが」には、がんばって生きているんだけどなかなか上手くいかない、そんな哀愁を込めています。
- 平野:
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あのたったワンフレーズにそこまでの思いを! でも、だからこそ登場シーンがそんなに多くないにも関わらずファンの記憶に残っているんでしょうね。私としても、全体のバランスを崩すことなく、作品のレベルをあげくださる緒方さんの存在がとても頼もしかった。ダーリンのお父様が緒方さんで本当に良かったです。
構成 / 山下達也 撮影 / 江藤海彦
緒方さん、平野さんも出演した「世田谷声優フェス2016」のレポートはこちら
レジェンド声優に関する情報が満載!レジェンド声優プロジェクトページはこちら
■豪華ベテラン声優が一同に集結!10月15日(土)朗読劇
『モレンジャーV(ファイブ)』開催!
【作品紹介】
人生も後半にさしかかった残尿感を残る導かれし男たちの物語・・・
ある夜、ベランダで巨大隕石が飛んでくるのを目撃した高橋譲二は その日を境にひどい残尿感に襲われるようになる。
高橋が泌尿器科を訪れると、そこには同じ理由で診察に訪れたおっさんが5人。
彼らは5次元世界から迷い込んだ99の「魔」を倒すために選ばれた、 残尿感のもとに導かれしモレンジャ―V(ファイブ)だった!
人生も後半戦にさしかかった5人のおっさんたちが、昏迷する日本に放たれた「魔」に立ち向かう!
残尿感に苛まれながら彼らは今日も「魔」と戦う!
全人類に贈る、壮大なるヒューマン・アドベンチャーが 今、始まる――…。
【出演キャスト】
井上 和彦:高橋 譲二 役(モレンジャ―Vのリーダー的存在。50歳。)
森川 智之:若林 正夫 役(唯一の既婚者。妻と二人の子供を持つ父親。51歳。)
水島 裕 :島村 淳 役 (ラーメン店経営。ロリコン。44歳。)
緒方 賢一:足立 進 役 (母と二人暮らし。物静かで気が弱い。女と無縁。)
山口 勝平:安田 一平 役(自宅警備員。親のスネをかじっている。39歳。)
山寺 宏一(声の出演のみ): おやじだらけのモレンジャーVナレーション担当
■朗読劇『モレンジャーV(ファイブ)』公演&チケット発売情報
10月15日(土)
昼公演: 15:00開演/夜公演: 19:00開演
料金:《前売》6,800円
《当日》7,300円
会場:光が丘IMAホール
住所:東京都練馬区光が丘5丁目1-1
チケット販売:イープラス9月10日(土)AM10時~発売開始!
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002200980P0030001
緒方賢一(おがたけんいち)
1942年生まれ。福岡県出身。趣味:ゴルフ、特技:舞台演出。代表的な出演作品としては『忍者ハットリくん』(獅子丸)、『名探偵コナン』(阿笠博士)、『はじめてのこくご ことばあ!』(おがちゃん)、『あたしンち』、『うる星やつら』、『らんま1/2』のお父さん役など。
平野文(ひらのふみ)
1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。