人間と猫との共生を描いた人気コミック『ねことじいちゃん』が、立川志の輔初主演作として実写映画化された。本作で監督デビューを果たすのは、動物写真家として世界的に知られる岩合光昭氏。ドキュメンタリー番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK-BS)と同様に、総勢35匹が登場する猫たちの愛らしい姿に目が釘付けになってしまう。また、地方の過疎化や高齢化といった人間社会の問題についても、猫の視点を交えることで解決のヒントをやんわりと提示したものとなっている。取材に同席した主演猫のベーコンに目を細める岩合監督に撮影の舞台裏、そしてクリエイターとしての原風景について語ってもらった。
劇映画の監督を引き受けた理由は?
──ドキュメンタリー番組は撮っている岩合監督ですが、プロの俳優たちが出演する劇映画は初めて。『ねことじいちゃん』の監督をオファーされた際のお気持ちは?
脚本を読ませていただいて、まず「猫の出演シーンが少ないな」と思いました(笑)。僕は映画が好きで、よく観るんですが、猫が少しでも映るともうダメですね。猫ばかり追い掛けてしまうんです。『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)も観ましたが、フレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)が飼っている猫が冒頭から登場するんです。フレディよりも猫のほうが気になってしまいました(笑)。そんな僕みたいな猫好きに楽しんでもらえる映画にしたいなと思ったんです。全シーンに猫が登場する映画にしよう、そんな映画はこれまでの日本映画にはなかったから、これは挑戦のしがいがあるなと思いましたね。そのことは最初の打ち合わせでプロデューサーに伝え、脚本家の坪田文さんにも「毎シーンに猫を出してください。猫の物語と人の物語が絡んで流れていくように」と頼み、脚本に書かれていないシーンは現場で僕が猫の登場シーンを加えていくことになったんです(笑)。
──岩合監督は本当に猫好きなんですね。
はい(笑)。原作で描かれていた三河湾(愛知県)の島には、猫の撮影で以前も行ったことがあったんです。特にメインのロケ地となった佐久島は、僕のお気に入りで、何度か訪問していました。佐久島の黒壁集落を猫とじいちゃんが一緒に歩いている姿が、ありありと目に浮かんできたんです。そのときには、もうすっかり監督を引き受けるつもりになっていました(笑)。
──主演猫のベーコンたちは動物プロダクションに所属するタレント猫とはいえ、俳優との共演は難しさがあったと思います。
そうですね。最初に台本の読み合わせをした際、キャストのみなさんには「すみません、これは猫の映画です。どうして、こんな素晴しい俳優のみなさんが、この映画に出てくださるのでしょう?」と尋ねたんです。みなさんは「猫が好きだから」と答えられ、その言葉にすごく助けられました。「猫の演技を待たなくちゃいけないシーンもあると思います」と話すと「待っています」ということだったので、後は俳優のみなさんに託していいなと思いました。みなさん、台本を読み込まれ、役づくりもしっかりされていたので、僕からどうのこうの言うことはありませんでした。ただ、立川志の輔師匠にだけは「肩の力を抜いてください」と伝えました。最初の頃、熱が入りすぎると落語家の立川志の輔が垣間見えたので(笑)。志の輔師匠は映画初主演で大変だったと思いますが、日を追うごとに、どんどん大吉さんになっていきました。