Feb 19, 2019 interview

「猫が幸せになれば、人間も幸せになれる」岩合光昭が語る幸福論、写真家としての心掛けと映画への想い

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写真家として、いつも心掛けていること

 

──岩合さんのお父さまは、動物写真家の草分け的存在だった岩合徳光さん。取材撮影で忙しく、家にいないことが多かったんじゃないでしょうか。

そうですね。それもあって、父と行った映画館の思い出が印象に残っているのかもしれません。小学生の頃は動物園にも連れて行かれました。父は動物園の園長や飼育員とも仲がよく、動物園の裏側にも入らせてもらいました。2010年に亡くなられましたが、増井光子さん(獣医師、女性初の上野動物園園長)からは「オラウータンを抱くか?」と尋ねられ、「オラウータンとだけは友達になりなくない」と答えたことをよく覚えています(笑)。それも小学生の頃でした。

──お父さんから受けた影響はやはり大きいんですね。

動物写真家は3K(きつい、汚い、危険)だから、同じ職には就かないぞと思っていたんです。まさか父と同じ道に進むとは思いもしませんでした(笑)。

 

 

──最後に、動物を撮る際に岩合さんが心掛けていることを教えてください。

人を撮るときと同じだと思います。相手のことを考えるということです。自分のことではなく、まずは相手のことを考えます。例えばアフリカ象を撮影するときは、アフリカ象の気持ちになって撮ろうと考えます。オラウータンを撮るときは、オラウータンのように撮ろうと考えます。オラウータンって、頭の中に森の全体像が入っているんです。オラウータンはイチジクが好きなんですが、近くのイチジクがまだ緑色だとバァーッと動き始めます。ここは緑色だけど、あそこまで行けば赤くなっていると、頭の中で分かっているんです。まったく見通しのできないジャングルなのに、どこに何があるのかを把握している。猫も同じです。猫がある場所に集まるのは、人間が気づいていない理由があるからです。動物たちの視点や感覚はすごいなぁと感心しながら、いつも撮っているんです。カメラを覗いていると、いろんなことに気づかせられますね。

取材・文/長野辰次
撮影/中村彰男

 

プロフィール

 

岩合光昭(いわごう・みつあき)

1950年生まれ、東京都出身。父・岩合徳光の助手を務めたことから、動物写真家として活動を開始。以後、世界各地で野生動物や大自然、身近な動物である犬や猫を撮影し続け、86年と94年に日本人として初めて「ナショナルジオグラフィック」の表紙を2度飾るなど、動物写真家として世界で活躍している。2012年からドキュメンタリー番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK-BS)が放送中。フィクション映画の監督は本作が初となる。

 

作品紹介

 

『ねことじいちゃん』

2年前に妻に先立たれ、飼い猫のタマ(ベーコン)と暮らす大吉(立川志の輔)、70歳。毎朝の日課はタマとの散歩、趣味は亡き妻の残した料理レシピノートを完成させること。島にカフェを開いた若い女性・美智子(柴咲コウ)に料理を教わったり、幼なじみの巌(小林薫)や気心知れた友人たちとのんびり毎日を過ごしている。しかし友人の死や大吉自身もいままでにない体の不調を覚え、穏やかな日々に変化が訪れはじめた矢先、タマが姿を消して――。

原作:ねこまき(ミューズワーク)「ねことじいちゃん」(KADOKAWA刊)
監督:岩合光昭
脚本:坪田文
出演:立川志の輔、柴咲コウ、小林薫、田中裕子、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之 ほか
配給:クロックワークス
2019年2月22日公開
公式サイト:http://nekojii-movie.com/
©2018「ねことじいちゃん」製作委員会

 

原作本紹介

 

「ねことじいちゃん」(5巻) ©Nekomaki/ms-work/KADOKAWA

「ねことじいちゃん」ねこまき(ミューズワーク)/KADOKAWA

名古屋を拠点にイラストレーターとして活動中のねこまきによる、累計発行部数45万部を超える人気コミック。猫のタマと大吉じいちゃん、一人と一匹が繰り広げる日々を優しく見つめる。Webサイト「コミックエッセイ劇場」にて連載中で、2015年8月に単行本化され、現在までに5巻が刊行されている。

 

映画を好きになるきっかけになった一作

 

「椿三十郎」黒澤明監督/62年

『羅生門』(50年)で日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭金獅子賞(最高賞)、アカデミー賞名誉賞(現在の外国語映画賞)を受賞した黒澤明監督による時代劇。黒澤組の常連であった三船敏郎、仲代達矢らが出演。2007年には織田裕二の主演、森田芳光監督のメガホンで再映画化された。

 

青春時代の思い出の映画

 

『道』フェデリコ・フェリーニ監督/54年

イタリアの“映像の魔術師”フェリーニの代表作のひとつで、1956年のアカデミー外国語映画賞を受賞した名作。粗暴な大道芸人のザンパノと純粋な心を持つ女性ジェルソミーナの旅を描き、フェリーニは本作で国際的な地位を確立した。フェリーニの愛妻ジュリエッタ・マシーナがジェルソミーナを演じた。

 

『ぼくの伯父さん』ジャック・タチ監督/58年

フランソワ・トリュフォーや、『ぼくの伯父さんの休暇』(53年)がヌーヴェルヴァーグの批評家からも絶賛されたジャック・タチの長編第3作。タチ自身が主演を務めて自由気ままに生きる伯父さんの日常を描き、1959年のアカデミー賞で外国語映画賞、1958年のカンヌ国際映画祭審査員賞に輝いた。