天才の童心に触れた高校時代
──「otoCoto」では毎回、クリエイターのみなさんに愛読書や最近読んで面白かった本を紹介してもらっています。三池監督の読書歴はすごく気になります。
そうですねぇ、高校時代はね、やっぱり背伸びしたくなるものなんですよね。三島由紀夫、谷崎潤一郎、泉鏡花などを読んでいましたね。自分が後々、泉鏡花の代表作である『夜叉が池』の舞台を演出することになるとは夢にも思っていませんでした(笑)。でも、そのころの自分には必要なものだったんでしょう。高校生の自分がどれだけ理解できていたのか分からないですけど、自分を騙すように読んでいましたね。日本語がきれいでしたしね。それが大人になってから活かされているかというと、全然そんなことないんだけど(笑)。
──中学から高校1年まではラグビーやっていたんですよね。
そうです。ラグビー部を辞めて、バイクを乗り回すようになって、パチンコ屋に通いながら、三島由紀夫も読んでいた(笑)。どっかでバランスをとりたかったんでしょう。『仮面の告白』は何度か読み返しました。
──三島由紀夫の小説は誰かから勧められたんでしょうか?
いや、それは三島由紀夫本人ですよね。作家というよりもニュースの対象として印象が強かった。楯の会もそうだし、市ヶ谷での事件だとか、あれだけ衝撃を与える人は僕らの世代では他にそういないでしょう。あの人は本当の天才。でも、高校生の自分にも瞬間的にわかるときがあったんです。三島由紀夫の書いた『イカロス』という詩があって、その詩を読んだ瞬間に「あっ、とんでもない天才に自分も交信できた」と感じたんです。バイクやパチンコに夢中になっている大阪の八尾にいる人間にも、天才と通じるものがあるんだと。三島由紀夫が自衛隊のジェット機に搭乗した体験を詩にしたもので、今まで下から見ていた飛行機雲を今の自分はその飛行機雲の先端にいるという、不思議な感覚と喜びを表現していて、文章は文学なんだけど心は子どもというね。その詩に触れたときは、なんて面白いんだろうと思いましたね。三島由紀夫は好きですよ。まぁ、三島作品を映画化するのはなかなか難しいし、周囲も僕にそちらは求めてないでしょうけど(笑)。
取材・文/長野辰次
撮影/吉井明
三池崇史(みいけ・たかし)
1960年大阪府八尾市出身。大阪工業大学高等学校、横浜放送映画専門学校(現・日本映画大学)を卒業し、オリジナルビデオ作品『突風!ミニパト隊』(91年)で監督デビュー。以後、『DEADOR ALIVE 犯罪者』(99年)、『オーディション』(00年)、『殺し屋1』(01年)、『新・仁義の墓場』(02年)、『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(05年)、『クローズZERO』(07年)、『ヤッターマン』(09年)、『十三人の刺客』(10年)、『悪の教典』(12年)、『藁の楯 わらのたて』(13年)、『喰女 -クイメ-』(14年)ほか多彩な作品をハイペースで撮り続けている。8月には『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』が公開予定。
映画『無限の住人』
木村拓哉が盲目の侍を演じた『武士の一分』(06年)以来となる2度目の主演時代劇映画は、鬼才・三池崇史監督との初タッグ作『無限の住人』。不死身の身体となった万次(木村拓哉)は、天津(福士蒼汰)、槇絵(戸田恵梨香)、尸良(市原隼人)、閑馬(市川海老蔵)らそれぞれ異なる得物を操る剣豪たちと死闘を繰り広げる。独眼の万次を演じた木村の殺陣は決して華麗なものではなく、これまでのスーパーアイドル“キムタク”のイメージをかなぐり捨てた泥臭さを感じさせる。天津によって殺された両親の敵討ちを願う凛(杉咲花)との師弟愛とも兄妹愛ともいえないバディムービーとしても見応えあり。三池監督はこれまでにも『十三人の刺客』(10年)、『悪の教典』(12年)、『テラフォーマーズ』(16年)など殺戮をテーマにした作品を度々手掛けてきた。三池作品はどれも勧善懲悪の物語ではなく、強い者が最後まで生き残るという大自然の摂理に従ったものばかりだ。幕府方300人を相手に戦う万次が殺戮の果てに何を手に入れるのか着目したい。
映画『無限の住人』
原作:沙村広男『無限の住人』
監督:三池崇史
出演:木村拓哉 杉咲花 福士蒼汰 市原隼人 戸田恵梨香 北村一輝 栗山千明 満島真之介 金子賢 山本陽子 市川海老蔵 田中泯 山崎努
脚本:大石哲也
音楽:遠藤浩二
撮影:北信康
主題歌:MIYAVI「Live to Die Another Day 存在証明」
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
2017年4月29日(土)より全国ロードショー
(c)沙村広男/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/mugen
『無限の住人』沙村広男/講談社
1997年から2012年まで「月刊アフタヌーン」で連載された沙村広明の異色時代劇。謎の老婆・八尾比丘尼によって“血仙蟲”を体内に宿したことから、不死身の身体となった賞金稼ぎの万次が主人公。死んだ妹にそっくりな娘・凛の用心棒となり、凛の両親を死に追い詰めた天津影久をはじめとする逸刀流の剣客たちと斬り結ぶことになる。多摩美大美術学部油絵科を卒業した沙村の画力は高く評価され、『無限の住人』はデビュー作ながら第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。英国版は2002年にアイズナー賞最優秀国際作品部門を受賞している。万次を圧倒する乙橋槇絵を実写版では戸田恵梨香が演じており、華奢な体型から三節棍を操った戦い方まで原作とそっくりなので見比べたし!
『仮面の告白』三島由紀夫
1949年、三島由紀夫が24歳のときに書き下ろした2冊目の長編小説にして、彼の代表作。母親から生まれてすぐに産湯に浸かった記憶があるなど幼い頃から周囲の大人たちを驚かせてきた主人公は、三島自身だと言われている。13歳のときに見た残酷な殉教画に興奮して初めて射精を経験したこと、体育の授業で懸垂をする同級生の男子の黒々としたワキ毛に抗いがたい魅力を感じたことなどが流暢な文体で書かれ、センンセーショナルな話題を呼んだ。三島文学ならではの性を超越した妖しい世界観は、三島が手掛けた戯曲をベースにした美輪明宏主演映画『黒蜥蜴』(69年)でも楽しむことができる。
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