Oct 01, 2019 interview

「映画から刺激を受けて書くことも」―『蜜蜂と遠雷』恩田陸が語る創作の秘訣、思い出の映画体験

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子どものころに観た映画、お気に入りのサントラ

――幼少のころからクラシック音楽に親しまれてきたそうですね。

そうです。クラシック音楽好きだった父親の影響で聴くようになりました。ピアノも高校まで習っていたんです。引越しが多かったので、先生が5人ほど変わりましたね。いまではもっぱら聴くだけになってしまいましたけど(笑)。

――大変な読書家としても有名ですが、映画はどんな作品をご覧になってきたんでしょうか。

子どものころに観た映画で一番印象に残っているのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(77年)ですね。予告編から不思議な印象があり、映画館まで観に行きました。学校内は『スター・ウォーズ』派と『未知との遭遇』派に分かれていましたね。もちろん『スター・ウォーズ』も素晴らしい映画ですが、私は『未知との遭遇』派でした(笑)。

――UFOのドキュメンタリー映画を観ているような不思議な感覚に陥る映画でしたね。キーボード演奏が物語の重要なキーでした。

ジョン・ウィリアムズのサントラもすごくよかった! 『未知との遭遇』はサントラもお勧めです。

――初めて映画館で観た作品は覚えていますか?

おそらく、ブライアン・デ・パルマ監督のホラー映画『キャリー』(76年)だったと思います。これもすごい映画でした。インパクトだけなら、『未知との遭遇』を上回っていたかもしれません(笑)。

大学時代に観た忘れられない洋画

――『蜜蜂と遠雷』の原作では、明石の登場エピソードに「『ロッキー』のテーマ」という見出しを付けています。『ロッキー』(76年)もお好きですか?

『ロッキー』は名作だとは思いますが、私の中ではまぁ普通でしょうか(笑)。高校のころはあまり映画を観ていないんですが、大学に進学してからは古い洋画をよく観るようになりましたね。

――早稲田大学の周辺には、名画座がたくさんありました。

いろんな映画が印象に残っていますが、『去年マリエンバートで』(61年)もその一本ですね。シュールで、メタフィクション的でもあり、私のツボにはまりました。『夏の名残りの薔薇』という小説を書いたのですが、これは『去年マリエンバートで』からの引用を使っています。映画から刺激を受けて、小説を書くこともあります。「私だったら結末はこうするな」とか考えたりすることで、新しいアイデアが生まれてくることもありますね。

―― 子どものころからのいろんな体験や小説、映画、音楽などに触れてきた記憶が一体化することで恩田作品は生まれてきているようですね。

そうですね。子どものころに読んだ小説を大人になってから追体験するというか、かつて体験した作品から感じた感情を自分の小説の中で再現しようとしているところがあるかもしれませんね。天才の境地には至りませんけれど(笑)。

取材・文/長野辰次
撮影/名児耶 洋

プロフィール
恩田陸(おんだ・りく)

1964年、青森県生まれ。1992年に『六番目の小夜子』で作家デビュー。『夜のピクニック』で本屋大賞と吉川英治文学新人賞を受賞。『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞。青春もの、ミステリー、ホラー、SFなど多彩なジャンルの小説を次々と発表している。映画化された作品に『木曜組曲』(02年)、『夜のピクニック』(06年)、『悪夢ちゃん The 夢ovie』(14年)などがある。

公開情報
『蜜蜂と遠雷』

芳ヶ江国際ピアノコンクールに集まったピアニストたち。復活をかける元神童・亜夜(松岡茉優)。不屈の努力家・明石(松坂桃李)。信念の貴公子・マサル(森崎ウィン)。そして、いまは亡き“ピアノの神”が遺した異端児・風間塵(鈴鹿央士)。一人の異質な天才の登場により、三人の天才たちの運命が回り始める。それぞれの想いをかけ、天才たちの闘いの幕が切って落とされる。はたして、音楽の神様に愛されるのは、誰か?
原作:恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎文庫)
監督・脚本・編集:石川慶
出演:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン  鈴鹿央士(新人) 臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ/ 眞島秀和 片桐はいり 光石研  平田満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史
『春と修羅』作曲:藤倉大 ピアノ演奏:河村尚子 福間洸太朗 金子三勇士 藤田真央 オーケストラ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:円光寺雅彦)
配給:東宝
2019年10月4日(金)公開
©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
公式サイト:https://mitsubachi-enrai-movie.jp/

書籍情報
『蜜蜂と遠雷』恩田陸/幻冬舎文庫