会話のキャッチボールと演技のプラン
平野 児童劇団も含め、劇団で学んだものが声優の仕事で非常に役に立っているってよく思うんです。
田中 役に立てなきゃダメですよね。劇団にいた意味がないですよ。俳優には相手役がいるわけで、相手役と会話をしようとしますよね。声の仕事をしている時も、同じ様に相手役と会話しようとする。そういうところで私たちは、生き残っていかないとまずいって思ってます。
古川 元々は “声優” という職業はなくて、俳優の勉強をした人たちがする仕事だったよね。
田中 劇団にいた方たちが、声優の創世記を作ってきましたけれど、声優になりたいっていって声優になった人はたぶん私たちの年代ではいないですね。
古川 声優という言葉自体があまりポピュラーじゃなかった時代ですからね。
平野 洋画もアニメもそうなんですけど、感覚的に自分がその役と対峙して、「縦の会話」をしていますよね。でも、芝居心があれば「横との会話」もできるじゃないですか。
田中 相手役が変わったときには、やっぱり会話の仕方も変わるはずっていうのはありますね。
古川 芝居をやってきた人は、会話のキャッチボールっていうのが癖になっていますからね。
田中 私たちが舞台で同じ演劇をやっていても、日々いつもと違う瞬間があるんですよ、ナマモノだから。でも、アニメや洋画の吹き替えだともう画が決まっているので、そこに求められている演技がある。だけど、そこにちょっと違う演技をどのぐらい入れられるのかっていうのが重要だと思うんです。
平野 自分の演技プランってことね。
古川 それ大事だよね。
『ドラゴンボール』のセリフはすごく難しかった
田中 『ドラゴンボール』の収録では、すごくブレスの位置が多くて大変でした。何度も「ご、悟空・・・サ、サイヤ人は・・・と、とてつもなく強いぞ」みたいに口を閉じちゃわなきゃいけなくて。最初、ちょっとこれはどうよって思ったんだけど。
古川 僕もそうですよ。「べ、ベジータ・・・そ、それが貴様の・・・きゅ、究極の技・・・」みたいなのね。
田中 言いにくいなと思うと「ご、悟空・・・」っていうのを「うわっ」って息を吸って、1回口を開けてから「悟空」って言うんです。
古川 調整しなきゃいけないんだよね。
平野 すごい!
田中 まぁ技ですよね。だから自分じゃない芝居。自分の芝居だったらこんなところで息吸わないよって思う。でも、そこに声を乗せていかなきゃいけない仕事でもあるから、さじ加減が必要だと思うんです。
古川 声優独特のスキルというのも、ある程度はありますからね。
田中 それは持っていないと仕事にならないですよね。
平野 あと、基本的には演技をやっているのに、直立不動でマイクの前から絶対動いてはいけないっていう基本的な制約があるじゃないですか。
古川 禁じられているアクションを熟知していないと、マイク前から口が外れちゃうよね。だから声の演技をするためには、俳優としての勉強も必要だと思う。
田中 口とマイクの位置は絶対外さないけど、やっぱり我々身体はかなり動いていますよね。
古川 マリリン・モンローの吹き替えをされていた向井真理子さんなんか、腰がくねくね動くんだけど口の位置は絶対に外さないっていう、あの技はすごかったですよ。