『Love Letter』(95年)、『スワロウテイル』(96年)など数々の傑作を世に送り出してきた岩井俊二監督。最新作『ラストレター』は、ふたつの世代の恋愛と、それぞれの心の成長と再生をつづる物語。過ぎてしまったあのころ、生きていく未来…。ノスタルジックな切なさと美しさが交差する、感動の1作となった。ロマンティックな叙情を持つ作品群から、岩井監督にスマートな印象を持つ人もいるかもしれない。しかしインタビューを試みると「いつも死に物狂い。ハードルを上げて作品づくりに挑んでいる」と、とことんストイックでアグレッシブな岩井監督。ラブストーリーを作るうえで刺激を受けているのは『機動戦士ガンダム』と明かすなど、意外な素顔が明らかとなった。
唯一無二の世界を生み出す秘密
――手紙のやり取りから、登場人物たちの初恋の記憶や、移ろいゆく人生が浮かび上がる物語です。『Love Letter』もそうですが、岩井監督が手紙というモチーフに心を動かされるのはどんな理由からでしょうか。
じつは『Love Letter』よりも前から、手紙についての物語を描きたいと思っていたんです。最近、古いデータを整理していたら、『Love Letter』の前に書いたらしき、手紙にまつわるストーリーのアイデアが出てきて。自分でも「そんなに前からやりたかったんだな」と思いました。思えば、井上靖の『猟銃』や『三島由紀夫レター教室』、太宰治の『パンドラの匣』など、書簡体小説も好きでしたね。
――そうなんですね! 手紙には誰かへの特別な想いや、秘密めいたものが込められているからでしょうか。
やっぱり、“誰かが誰かに宛てて書いている文章”というひとつの縛りがあるなかで、物語がつづられていくとなると、作品にするうえでは描きにくいものですよね。だけど、そういった縛りがあるなかで物語が描かれていくことに、妙味を感じるというか。「手紙に書かれていること以外に、どういうことがあったんだろう?」と想像していかなければいけないおもしろさがある。「きっと手紙に書いたことがすべてではないだろうし、その真相はなんだろう?」と考えていくことが、楽しさにつながっているのかなと思います。
――本作では、姉の未咲を亡くした主人公・裕里(松たか子)と、その初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)、未咲の娘・鮎美(広瀬すず)の“三角形の文通”が交わされますが、手紙の真相が明らかになるにつれて、物語が思わぬ方向に展開していきます。
僕はいつも自分に無理難題を課しながら、物語を作っているところがあるんです。「こんな展開になったら、この先には進めないよ」「こんなことは起こり得ない」というギリギリのところを思いついては、それを「どうやって解決していこうか」と考えながら、取り組んでいることが多いです。今回も一旦、初めから最後まで物語を書いてみて、そこからもう一度振り返って、どんどん深掘りをしていった形です。劇中に出てくる小説家の鏡史郎が書く『未咲』という小説も、丸々一冊、自分で書いてみました。そこでやっと全体像を掴めて、着地できたと思いました。
――自分に無理難題を課すなど、“攻め”の姿勢でものづくりに励んでいらっしゃるのですね。
そうですね。やっぱり、楽はできないと思っています。お客さんは想像を超えるような物語を求めているわけだから、そこで楽をしてしまったら、きっとお客さんが僕を許さないですよね(笑)。「こうなるだろう」という通りに出来上がった物語では、お客さんが楽しめるとは思えない。自分に相当な負荷をかけないと、お客さんの好奇心を満たす作品はできないと感じています。ハードルは、つねに上げていたいですね。