Jan 25, 2020 interview

岩井俊二が明かす創作の裏側と原動力、描くラブストーリーの意外な原点のひとつ

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飲み会に潜んでいた、意外な着想のヒント

――その原動力となるのは、いったいどういったものですか?

結局、大変だけれど、謎を解いていくように物語を作っていくのが、自分でも楽しいんです。永遠に解けない謎もないだろうと思うし、いずれ答えが出るだろうと思う。何年かかっても、取り組み続ければきっとおもしろくなるはずだと信じている。小噺でいいとしたら、毎日のようにおもしろいものを書ける自信はあるんです。でも2時間ほどの映画を作るとなると、一気にハードルが上がる。もうそこは、「なんとかなるだろう」と信じるしかないですね。とはいえ、解けないまま、仮設のまま残っている原案はじつはいくつもあります。

――故郷である宮城県仙台市で初めて撮影を敢行したことからも、岩井監督にとって自伝的要素の盛り込まれた作品なのではと感じます。ものづくりの葛藤を抱えた小説家の鏡史郎に投影した想いはありますか?

自分自身でもあるし、学生時代から同じように夢を追いかけている人、挫折した人など、鏡史郎のサンプルになった人はたくさんいます。中学・高校のころの同級生は、僕の作品を観てくれている人が多いんですが、ある時、大学の友人が意外と観てくれていないということに気がついて…(苦笑)。飲んでいる席で聞いたんですが、「観るのがツライ」と。彼は別に映画監督になりたかったわけではないんだけれど、叶えたい夢があって、そんな彼にとっては、僕が夢を叶えているように見えたらしいんです。こちらとしては夢が叶っているのか、叶っていないのかわからないし、死に物狂いでやっているだけなんですけどね。

――なるほど…。嫉妬のようなものでしょうか。

嫉妬といっていいのか、無念のようなものというか。彼の話を聞いた時に、僕も少なからずそういった思いに駆られたことがあるなと思ったし、これは些細な話じゃないなと。夢や目標を追いかけている、ありとあらゆる人の想いを感じた。同級生は僕の映画を喜んで観てくれているのかと無邪気に思っていたけれど、まったくそういうことではなかった。“人の心の複雑さ”を目の当たりにして、これは大きな素材になるなと思った。飲み会の席で大きな課題を手に入れてしまったわけです(笑)。その時すでに「これで何か1本作ろう」と思っているわけですから、なんでも映画のモチーフとして考えてしまうんです。