Dec 07, 2017 interview

『DESTINY 鎌倉ものがたり』山崎貴監督が語る“初めて見るのにどこか懐かしい”異界の作り方

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子どもの頃、死後の世界を考えるがとても怖かった

 

──前半は一色先生が地元・鎌倉警察署の「心霊捜査課」と共に難事件を解決する「江ノ電沿線殺人事件」など原作でおなじみのエピソードが並びますが、後半からは長編映画ならではのオリジナル色の強い展開に。

原作コミックを読み返しながら、長編向けのエピソードはないかなと探していたところ、魔界の王子に亜紀子がさらわれるエピソードがあったんです。それに加え、「鎌倉ものがたり」全体を通して読んでいると、死者との距離感がテーマになっているように思えてきたんです。それで亜紀子がさらわれていく先は魔界ではなく、黄泉の世界にしました。完全なオリジナルではなく、原作にあったエッセンスをうまく使わせてもらった感じですね。

──黄泉の国に旅立った妻を夫が連れ戻しに向かう。日本神話のイザナミとイザナギを思わせるストーリーです。

確かにそうですね。ギリシア神話にもほぼ同じ内容のものがありますしし、死んだ妻を夫が連れ戻そうとするという伝説はそれこそ世界各地にあるんです。でも、そういった神話の世界では、だいたい失敗することになる。『DESTINY』がどんな結末になるのかは見てのお楽しみですが、そういう世界中に脈々と受け継がれている神話の構造を生かした物語にはしています。まぁ、山崎組じゃないと、黄泉の国を描こうなんて考えないでしょうね。脚本を読んでも、ただ電車に乗って巨大な瀧を越え、黄泉の国へ向かう―と書いてあるだけなので、「何、これ?」とぽかんとしてしまうストーリーだと思います(笑)。黄泉の国をどう描くんだと。でも、山崎組のスタッフはみんな慣れたもので、粛々とやってくれました。監督の頭の中にあるイメージを、それぞれが粛々と現実化してみせてくれる、とても頼もしいスタッフなんです(笑)。

 

 

──『ALWAYS』や『寄生獣』二部作(14年、15年)は、脚本家の古沢良太氏との共同脚本でしたが、今回は山崎監督が単独で書き上げたシナリオですね。

もちろん、古沢くんに脚本をお願いすることも考えたんですが、古沢くんも巨匠になって最近は忙しそうなので(笑)。今回はスケジュール的に余裕がなかったこともあって、とりあえず自分ひとりで脚本を書いてみよう。もし途中で困ったら、古沢くんに助けを求めようと(笑)。でも、まぁ、今回は自分で脚本を書いたことで、「これはVFXで表現できるな」と自分自身でジャッジしながらイメージを作っていく作業もできたので、作業効率的には良かったと思います。VFXの知識がない、まったく初めての脚本家と組んでいたら、大変なことになっていたでしょうね。

──山崎監督が単独で脚本を書いたこともあり、山崎監督独自の“死生観”が明確に浮かび上がった黄泉の国になったように感じられます。奇岩が並ぶ光景は中国の武陵源、温泉街のような古い建物が立ち並ぶ様子は鳳凰古城を参考にしているそうですね。

そうです。今回、僕の中では「初めて見たけど、どこか懐かしい風景」というのがのキーワードでした。黄泉の国って死んでから初めて見る風景なんだけど、どこか懐かしさを感じるんじゃないかと思うんです。それって前世の記憶とリンクするからだと思うんですけど、僕だけの独りよがりじゃなくて、多くの人に「懐かしい」と感じてもらえる風景にしたかった。そんなときにテレビで中国の鳳凰古城が映っているのを見て、「これはいいな」と思い、実際に現地まで見に行きました。もちろん、僕が鳳凰古城に行くのは初めてだったんですが、それなのにどこかノスタルジックに感じてしまう不思議な街でした。武陵源も見てきました。「こんな空間が現実にあるんだ」と感嘆してしまうくらい巨大な奇岩がずらりと並んでいました。どこを見てもSFの世界。映画『アバター』(09年)そっくりの世界でしたね(笑)。

 

 

──「黄泉の国は、見る人によってそれぞれ異なったイメージで現われる」という幻想作家・甲滝五四朗の解説も興味深いです。

それは僕が昔から考えていることなんです。死ぬ瞬間に、その人が何を思っているかによって死後の世界って変わるんじゃないかと僕は思うんです。「良かった、満足した。人生をやりきった」と幸せな気持ちで最期を過ごせば、そういう世界に行くんじゃないかと。逆にそれまでの人生で隠し事が多く、自分の良心が咎めるようなことをいっぱいしていると、傷ついた魂と共に暗い世界に行くことになるんじゃないかなと。それが昔から言われている、天国や地獄ではないのかなと僕は考えているんです。だから、僕が死んだらこういう世界に行きたいなぁと(笑)。そう考えたら、けっこう死後の世界も楽しそうでしょ? 

 

 

──50代にして、“理想の天国”のイメージを映画の中で描いたわけですね。

まだ、すぐには行くつもりはありませんよ(笑)。でも、子どもの頃から「死んだらどうなるんだろう?」とはずっと考えていました。死ぬことを考えるのは怖いんですが、でも気になってしまうんですよね。今回、自分が監督した作品の中で映像化できたことで、「あそこなら、将来行ってもいいかな」と僕自身が思えるようになりましたね。ここ数年、知り合いが何人か亡くなったんですが、仲の良かった友達と、こんな世界で再会できたらいいなみたいな想いもあります。黄泉の国で懐かしい人たちに逢って、しばらくのんびりして、それから「さぁ、生まれ変わりますか」みたいな死後の世界だといいなと思うんです。僕にとっての理想のあの世なんですけど、この映画をご覧になった方が、「あの世って、けっこう楽しいかも」と感じてもらえるといいですね。一面のお花畑でも、雲がぷかぷか浮かんでいる世界でも良かったんですが、今回は「僕がプロデュースしたあの世です。いかがですか?」という感じです(笑)。