今ここじゃない世界と「コネクト」する感覚を共有しながら
池ノ辺 役者さんも皆さん素晴らしかったです。主演の綾瀬はるかさんとは、撮影前にどんなお話をされましたか。
石井 実は、あまりに観念的な話なので、他人に伝わるかどうかわからないと思いながらも最初にお会いした時に思い切って話したことがあります。そしたら、綾瀬さんは「理解できる」と。

池ノ辺 どんなことでしょう。
石井 そこでは「コネクト」という言葉を使ったんです。今生きているこの世界というのは、先ほど言ったように、生者の世界と死者の世界、あるいは自分が生まれる前の世界とか死後の世界とか、そうしたさまざまな世界ときっと隣接しているんだろうなと感じるんです。その境界線というのは、一応あるんでしょうけれど、それがふとした瞬間、あるいは何かのきっかけで、境界が曖昧になる瞬間がくる、そういう感覚があるんです。この映画の例で言えば、会えないはずの人に会えるような気がする、そういう心情、期待のようなものは人間だったら誰しもあるんじゃないかと思うんです。
池ノ辺 亡くなってしまったりして会えないはずの人と、すぐ近くで世界を共有しているような感覚って、確かにありますよね。
石井 そう思い込まないと人生が辛すぎてやっていけないからそうなるのか、実際に世界は隣接しているのか、そこは僕にはわからないです。でも違う世界に接続する、つまりコネクトできる、コネクトしている、そうした感覚についてまず綾瀬さんと話しました。そのコネクトの感覚の中で、ふと思い出してあの手紙を書いたんだろうと、僕はまず想像していたからです。
池ノ辺 わかります。


石井 明瞭な感情で、明確な目的があって書いた手紙、ということでは、およそあのラブレターの執筆というのは成立しないんじゃないか、そういう話を綾瀬さんとしました。不思議な魅力を持つ主人公を作り上げる上で、この「コネクト」はお互いの共通語になったと思います。現場で「今コネクトしてますか? 」とか「してませんか? 」という言い方で使っていました。お互いの感覚をチューニングするために役立ちました。
池ノ辺 確かに文字にすると難しいですね。
石井 そうなんです。本当にこれはもう感覚なんです。でも、その理屈じゃないところを綾瀬さんと共有できたというのは、この映画にとってすごくプラスに働きましたね。そしてこの映画を面白いと言ってくれる人がいるのだとしたら、たぶんその感覚をキャッチしてくれたんじゃないかと思うんです。
池ノ辺 そういう人たちは実際に経験しているのかもしれませんね。

石井 もちろん、誰か大切な人を亡くしたというような経験に由来するということもあると思います。でもそれだけじゃない。たとえば僕の7歳の子どもとその友達は、この映画を観てとても感激していました。
池ノ辺 7歳の子が? 素晴らしい。
石井 それはおそらく、向こう側の世界というかこの世界ではない世界を想像する力が、僕らよりあるからだと思うんです。「死ぬ」ということに対する感度と、死んだ後どうなるかということをイメージする想像力が強いんですよ。
池ノ辺 考えてみれば、誰かと一緒に映画を作るとか、映画じゃなくても何か一緒に行動してくときというのは、そういう感覚のところで通じる部分があるんじゃないでしょうか。そういう感覚が共有できているからいいものができるんですね。
石井 はい、本当におっしゃる通りです。

池ノ辺 最後に、監督にとって映画とは何ですか。
石井 ラブレターです。
池ノ辺 すごくうまくまとまった気がします (笑)。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 立松尚積
監督・脚本・編集
1983年生まれ。埼玉県出身。大阪芸術大学卒業、日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修士課程修了。「舟を編む』(13)では、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監賞ほか6冠に輝く。その後、『映画夜空はいつでも最高密度の青色だ」(17)で第91回キネマ旬報ベスト・テン第1位、ベルリン国際映画祭出品。近年の作品に『アジアの天使』(21)、『月』(23)、「愛にイナズマ』(23)、「本心』(24)などがある。

寺田ナズナは、とある青年に手紙を書きはじめる。24年前、17歳のナズナは、いつも同じ電車で見かける高校生・富久信介にひそかな想いを抱いてた。一方、信介はプロボクサーを目指していた。そんな彼らに、運命の日、2000年3月8日が訪れる。――2024年、ナズナからの手紙を受け取った信介の父・隆治。その手紙の中に亡くなった息子の生きた証を確かに感じ、知りえなかった信介の在りし日が明らかになっていく。
監督・脚本・編集:石井裕也
出演:綾瀬はるか、當真あみ、細田佳央太、妻夫木聡、音尾琢真、富田望生、西川愛莉、菅田将暉、笠原秀幸、津田寛治、原日出子、佐藤浩市
配給:東宝
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会
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公式サイト loveletter.toho-movie.jp