Dec 25, 2023 interview

共同脚本 & プロデュースの高崎卓馬が語る 自主映画的な始まりから雪だるまのようにどんどん大きく育っていった『PERFECT DAYS』

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大好きな人たちと転がす雪だるまの行方

©Kazuko Wakayama

池ノ辺 いきなり海外、しかもカンヌで賞を取ったときには、日本ではどこが配給するの? とちょっとざわついていました(笑)。

高崎 もともとが自主映画みたいな感じで、ヴェンダース監督にも短編を4つくらい作ろうと言って始まったんです。ドキュメンタリーみたいなフィクションを撮ろうという話のつもりでいたら、考えていた平山の周辺にあるたくさんのエピソードをどれも撮影したい、そうすると映画としてやったほうがいいという話になって。

最初から映画を撮るという話だったら、公開はいつにするのか、どのくらいの規模でやるのか、ビジネスとしてどういうゴールにするのかという話が入ってきて、なかなか前に進まなかったかもしれません。ヴェンダース監督もそこがないと納得しなかったと思います。面白いから映画にしよう。つないでみたら意外といいから、映画祭に出してみよう、評判がいいぞ、みたいな流れで。配給に関しては、僕が配給会社のビターズ・エンドが大好きだったので、自分の中ではそこと決めていました。(ビターズ・エンド代表の)定井(勇二)さんに観てもらって、気に入ってもらえたら、という感じで相談に行きました。

池ノ辺 配給もどこがいいと決めていたんですね。

高崎 初めから向かう方向が決まっていたわけではなくて、雪だるまみたいに。最初は柳井さんと転がし始めて、そこに役所さんやヴェンダース監督が入ってきて大きくなって、さらに定井さんが加わって、カンヌで評価されて雪だるまが一回り大きくなって。もう雪がないかなと思っていたらあっちの方にまだ雪があるよという人がいてそちらに転がしていって、今もまだ転がしている最中なんです。そして押して転がしているのはみんな仲間。同じように映画が好きで、僕らが尊敬できるとか大好きだとか、そういう人がチームになるとそこだけは決めている。

池ノ辺 次は米アカデミー賞ですか。

高崎 今ちょうど太平洋を渡っているところです(笑)。アメリカはまたカルチャーが違うので見える景色が面白いですね。ヴェンダースと一緒にカンヌに行って思ったのは、彼と一緒だったからこそ見えた景色があったと。それは全く同じ映画でも、日本の監督が作っていたら見られなかった景色だと思うんです。そんなふうにいろんな景色をこの映画に見せてもらっています。みんなで雪だるまを転がし、一生懸命映画を作って、今まで行ったことのない場所、出会ったことのない人たちと出会いながら、気がついたら大きな雪だるまになっていて新しい景色をみんなで見ているという感じです。

池ノ辺 好きなことを突きつめて作った映画が、みんなに共鳴して評価される、それはとても素晴らしいですよね。

高崎 ありがたいですね、本当に。日本の映画って、すごく面白いものがいっぱいあると思うんです。この監督がすごいとかこの作品は面白いとか。でも、良いと気づかれていない。せっかく良いものを作っても気づいてもらえなければ、雪だるまは転がらない気がします。もちろんいいものを作るということが雪だるまの始まりなんだけれど、それを転がさないと雪だるまは大きくならない。だから、20代とか30代でいいものを作っている人たちには、諦めずに雪だるまを作って押していってほしいと思います。そのお手伝いもこういう経験をさせてもらっているのでしていきたいです。

池ノ辺 そうですよね。私もそういう雪だるまがあったら一緒に押していきたいと思いますもの。では最後になりましたが、高崎さんにとって映画ってなんですか。

高崎 難しい質問ですね‥‥。田舎で、自分が何者なのか全くわからないときに映画に出会って、それがカメラを手にするきっかけになって、今では自分の人生の結構大きな部分を占めている。映画がないと困りますね。今もずいぶん観ますけど、でも「映画とはこうあるべき」というのはあまり思わないです。一言では言えないけれど、だからこそずっと考えるし、好きでいられるのかもしれないです。

人間はなんのために生まれたのか、みたいな答えの出なそうなことを、考え続けるきっかけをたくさんくれるものかもしれないし、自分がいる世界以外のことを断片的でも知って、想像力を強くするためのものかもしれないです。想像力って優しさのはじまりだと思うので、やっぱり映画や小説やそういう創作物にはそういう力があるような気がします。

池ノ辺 また映画を作りますか。

高崎 雪だるま人生なので、自分が次に何をやっているのか全くわからないです(笑)。

ただ、今回ヴェンダース監督から学んだこと、感じたこと、知り合えた人、そうしたものを自分だけのものにするということはしたくない。こういうものを必要としている人たちの力になるように、ということは考えています。僕自身が次に何かを作る、そのエネルギーというものももちろんあるんだけれど、たとえば才能ある若い監督がいたら、自分が得たものを全部渡して、その人が次のステージにいくために力を貸す、ということをやりたくなるかもしれないです。とにかく国境をどんどんまたいでいくといいと思っているので。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
高崎卓馬(たかさき たくま)

共同脚本・プロデュース

株式会社電通グループ グロースオフィサー/ クリエイティブディレクター、小説家。JR東日本「行くぜ、東北」など数々の広告キャンペーンを手がけ、2度のクリエイターオブザイヤーなど国内外の受賞多数。その活動領域は広く、著書に小説「オートリバース」(中央公論新社)や、海外でも評価の高い絵本「まっくろ」(講談社)、「表現の技術」(中公文庫)など。

作品情報
映画『PERFECT DAYS』

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。

監督:ヴィム・ヴェンダース

出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和

配給:ビターズ・エンド

© 2023 MASTER MIND Ltd.

公開中

公式サイト perfectdays-movie

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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